デザイナー/メーカー名の表記

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海外の名前を完全にカタカナ表記することは、対応する子音がなかったり、母音が入らないところで母音が入ってしまったりするため不可能である。そこで、近い表記を目指すわけだが、人によって異なることがある。

どんな表記があるか、紙媒体のボードゲーム関連書籍を調べてみた。調査したのは『ノイエ』(1998-2001、N)、『トイプラス』(2002、T)『バンプレス』(2001-2003、B)、オフィス新大陸の『ボードゲーム天国』と『ボードゲームキングダム』(2003-2005、O)、『シュピール』(2003-2010、S)、『ドイツゲームでしょう』(2007-2010、D)、安田均氏の『ボードゲーム大好き』と『ゲームを斬る』と『ボードゲームジャンクション』と『ボードゲームストリート』(2002-2011、Y)、『ゲームリンク』(2009-現在、G)である。括弧内の数字は、レビューサイトでの使用頻度。

まずデザイナー名から。

Schachtは、Nで「シャハット」「シャヒト」、Oでは「シャフト」「シャハト」と表記していたが、T、S、Y、Gは「シャハト」(365)で一致する。ただしDの2010年版は「シャフト」(29)が採用されている。実際の発音(1)(2)は、どちらにも聞こえる。

Faiduttiは、Nで「フェイドゥッティ」(42)、T、Oで「フェドゥッティ」(135)と表記していたが、Y、S、Dにおいて「フェデュッティ」(73)になった。ただしGはNに回帰して「フェイドゥッティ」を採用している。実際の発音は「フェイドゥッチ」といった感じだろうか。

未だ定着を見ていないのはKeyaertsで、Nで「ケアルツ」(0)、Yは「ケヤエルト」(2)、Sで「ケヤーツ」(8)となっているが、Gは「ケイアルト」(0)「キーヤーツ」(14)「ケイヤール」(0)と変わってきた。

KniziaはYのみ「クニツィーア」(85)であとは「クニツィア」(639)。実際の発音は伸ばしているようには聞こえない。DornはYのみ「ドルン」(3)であとは「ドーン」(102)、DorraはTとDの2010年版のみ「ドラ」(29)であとは「ドーラ」(90)。DelongeはNが「デロンゲ」(10)、Yは「デロンジェ」(1)、Sは「デロンゲ」から「デロンシュ」(66)になった。Friedemannは使用例が少なく、Yが「フリーデマン」(92)、Gでは「フリーデマン」から「フリードマン」(58)に変わった。実際の発音は「フリーデマン」に近い。WallaceはYが「ウォーレス」(23)、Gが「ウォレス」(20)。レビューサイトでは「ワレス」(329)が圧倒的に多い。実際の発音は「ウォレス」にも「ワレス」にも聞こえる。

次にメーカー名。

RavensburgerはN、T、B、O、S、Dともに「ラベンスバーガー」(269)で、YとBが「ラベンズバーガー」(57)、Tには「ラーベンスブルガー」(0)も見られる。ちなみに実際の発音に最も近い「ラーフェンスブルガー」(5)はほとんどない。これは不二商以来の表記の伝統だろう。Hans im GluckはN、Bでは「ハンス・イン・グリュック」(7)だったのがT、O、S、Dで「ハンス・イム・グリュック」(120)になっている。GoldsieberもN、Bでは「ゴールドジーバー」(22)だったのがT、O、S、Dで「ゴルトジーバー」(103)。ZochもN、Bでは「ゾッホ」(0)だったのがT、O、Y、S、D、Gともに「ツォッホ」(242)になっている。eggertはSで一時「エッゲルト」(19)と表記されたこともあったが、O、Y、S、Gともに「エッガート」(67)で揃っている。実際の発音は「エッガート」寄りか。

さて、こうした表記の揺れが、年月を経てだんだん人口に膾炙してくる。上記の例だと「シャハト」、「クニツィア」、「ドーラ」、「デロンシュ」、「ワレス」、「ラベンスバーガー」「ハンス・イム・グリュック」、「ゴルトジーバー」、「ツォッホ」、「エッガート」は、レビューサイトの使用頻度で対抗馬を5倍以上引き離しており、デファクトスタンダードになっていると見られる。一方、Faidutti、Friedemann、Keyaertsはまだ一定しておらず、時間が必要となりそうだ。

ところで、エッセン国際ゲーム祭で精力的にデザイナーと会談してきたストーンR氏が「その発音では通じなかった」と異を唱え、「シャフト」「ドラ」「フリーデマン」「ラーフェンスブルガー」「アーレア」などと表記するべきだと主張している。表記を統一しなければならないplay:gameでは編集合戦が続く。

私にはあまり表記へのこだわりはなく、国内未紹介ならば適当に表記するし、様子を見て変えたりもする日和見主義である。そのような態度でストーンRさんの熱意に打たれ、Dの2010年版では実験的に「シャフト」「ドラ」に変更してみた。ストーンRさんの創出ではなく、OやTでの使用例があったからであるが、定着している状況での変更に戸惑いの声も大きい。先日の「ボードゲームストリート書評」では多くコメントが寄せられ、安田氏が独自の邦題をつけていることを問題にしておいて、独自のデザイナー名にするのはダブルスタンダードではないのかという批判もあった。

そこで今回、過去の使用例と使用頻度を調べてみたわけであるが、ほかにも考えなければいけないことがある。すでに別の意味で用いられている表記や、別の検索ワードで引っかかりやすい表記は、混同を避けるため使わないというのが一点目。「シャフト」は棒(Schacht)や穴(Schacht)の意味があり、「ドラ」は麻雀用語だけでなく「ドラマチック」「ドラスティック」など語頭によく用いられる。

それから、実際の発音に近づけるメリットと、広まっているものを変更するデメリットとの比較衡量が二点目。大幅に違っていて、まだあまり広まっていないならば変えるが、広く使われていて微調整する程度ならば、そのままにするという選択を取る。Schachtは「シャフト」と「シャハト」のどちらにも聞こえ、またドイツの政治家に「ヒャルマル・シャハト(Hjalmar Schacht)」という表記もある。Dorraは「ドーラ」ほどでなくとも「ド-ラ」くらいの隙間がある。

発音と表記は別物という意見もある。本来の発音に近いかどうかを問わず、スペリングをイメージできるよう一定の法則に従って表記したり(フランス語では難しいが、ドイツ語ではある程度まで可能)、日本国内で通じるように発音しやすいものにしたりすることが重要であるというという考え方で、これも一理ある。ドイツ語でaの後にchが来たら「ハ」と表記することが一般化しており(Nachtmusik=ナハトムジーク)、「シャフト」では「Schaft」と区別できない。

以上は言語面での検討だが、さらにほかにもその名前に隠れた歴史的背景・地域的な特性・個人の思想信条、その国の文化の我が国における受容度など、調査検討しなければいけないことはまだまだある。長い時間かけて議論し、定期的に見直していくことが望ましい。

このように、過去の使用例・現在の使用頻度・混同を避ける表記・変更するデメリット・日本語の事情などの観点から検討した結果、少なくとも当サイトでは当面、このような表記を採用することにした。

ミヒャエル・シャハト、ブルーノ・フェイドゥッティ、フィリップ・ケイヤール、ライナー・クニツィア、リューディガー・ドーン、フランツ・ベンノ・デロンシュ、シュテファン・ドーラ、フリーデマン・フリーゼ、マーティン・ワレス、ラベンスバーガー、ハンス・イム・グリュック、ゴルトジーバー、エッガートシュピーレ、ツォッホ
ほかに―ヴォルフガング・クラマー、シュテファン・フェルト、アンドレア・マイアー、コルネ・ファン・モーセル、アントワン・ボザ ……これだけ検討して、前とほとんど変わってない(笑)。

いろいろな観点があるにせよ、実際の発音に近い表記を取ることは優先事項であることは間違いないので、今後、新人デザイナーが出てきてきたときは、スカイプなり、エッセンで実際に会うなりしてなるべく早く調べて提案をするようにしたい。

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