「自分のお唱えをテープに録音して聴いてみたら、アヤの中に不純な音程があることがわかり、鍛錬がまだまだ足りないと思いました」(大徳先生)
「アタリ」とは原音を一瞬だけ上げるか下げるかする表現法で、「ユリ」と共に旋揺法の基礎になるものです。指導必携に説かれる11の旋揺法のうちアヤ、縦アタリ、横アタリ、ツヤ、イロ、打ちナミ、装飾音符の7つの構成要素となっており、これをどれだけ上手に用いるかが曲想の大きな鍵となります。
「アタリ」には2つの大別があります。指導必携では以下のように定義されています。
(甲)原音に、短い上向音(発声原音が上に揺れた音)が出るアタリ
(乙)原音に、短い下向音(発声原音が下に揺れた音)が出るアタリ
前者はアヤ、縦アタリ、横アタリ、装飾音符の4つで用いられ、後者はツヤ、イロ、打ちナミの3つで用いられます。
筆者が疑問に思ったことは、アタリの音程です。指導必携では、どこまで音を上げる(下げる)のか触れられていません。「特に決まりはない」「一瞬なので音程はない」という説もありますが、それでは済まないことがありました。

観世音菩薩御詠歌の冒頭「たのもしな」の「の」の2拍目に横アタリがあります。この曲を詠頭司としてお唱えした録音を聴いたとき、愕然としました。アタリの上向音がラ♭になっているのです。その結果、長調であるこの曲が、一瞬短調曲になってしまいました。前の曲が短調の観世音菩薩第二番御詠歌だったこともありましたが、失敗したと思いました。試しに、この上向音をラというつもりで唱えてみたところ、聴いた感じがずっとよくなりました。
さて、アヤを習得する為にアタリをゆっくり行う練習があります。上から「ミーソミレミレー、レーミレドレドー、ドーレドラドラー、ラードラソラソー、ソーラソミソミー、ミーソミレミレー、レーミレドレドー」と下っていくもので、上向きになる部分をだんだん詰めていきます。また、ツヤの練習では「ミーレミレミレミー、レードレドレドレー、ドーラドラドラドー、ラーソラソラソラー、ソーミソミソミソー、ミーレミレミレミー、レードレドレドレー」と下り、下向きになる部分をだんだん詰めていくというやり方があります。
アヤのための練習譜

ツヤのための練習譜

この2つの練習が示していることは、上向音・下向音とは四七抜き(ファとシがない)音階でそれぞれ次に上の音、次に下の音であるということです。短調曲ならばミとラに♭がつくべきことは、上に述べた通りです。
これでアタリの音程はひとまず結論が出たわけですが、それでもまだ問題があります。それは、イロの場合のアタリです。イロの場合、アタリにゆるやかに丸みを持たせるために、もとの音程に戻ってくるのに一音(二度)しか下げないという唱え方があるからです。

よく見かけるかたちですがこのような場合、ツヤとの違いを強調としようとすればするほど、ミ(短三度)まで下げるのが難しくなるようです。イロとして聞こえるゆるやかに丸いアタリを作るために、ファ(二度)までしか下げない先生もいらっしゃいます。その場合、ファまでしか下がらないことがゆるやかな感じを醸し出すとも言えます。ドにイロが入る例は今のところありませんので、ソにイロが入る場合のみに限られますが、四七抜き音階の法則を破って二度の変化をする場合があるということです。
ただし、アタリの定義である「一瞬緊張・原音再発声」までぼやけてしまって、引き波やユリ系統のグリッサンドになるのはイロとして違和感を感じます。下向音をつかわずに、音量をアタリの直前で絞ることによって丸みを作った上で、かるーい乙アタリを入れるというのが筆者の理想です(「シュモクの下手なしはん」さん、ご提案ありがとうございました)。ポイントは乙アタリをいかに「かるーく」できるかというところにあるでしょう。筆者はよく「それじゃあツヤと変わらないよ」という注意を頂いています。
それからもうひとつ、どう聞いてもこの法則が適用されていないものがあります。それは縦アタリです。横アタリと区別するという意味もあるでしょうが、聴いたところ四度から五度くらいの跳躍があることが多いようです。これも例外と考えた方がよさそうです。
以上、結論としては
1.アタリの音程は長音階、または短音階でひとつ上または下の音を採用する
2.イロに限り、ファの使用があり得る
3.縦アタリは、その限りではない
ということが言えそうです。