神様のベッド

ブラフマーの蓮夕食を終えて家に帰ってくると、となりの家族がドアの外でおしゃべりしている。あいさつをして家に入ろうとすると、ブラフマカマル(ブラフマー神の蓮)が咲いているのを教えてもらった。写真を撮ろうとすると、これからもっと花が大きくなるから午前0時にまた見に来てという。
ブラフマーはインド三大神のひとつ。大蛇を寝床にして海上で眠るヴィシュヌ神のヘソ(笑)から蓮が出て、その中に生まれとされる。ブラフマカマルとは蓮の一種で、そのおしべとめしべがこの神話通りであることから名づけられた。横向きに咲いた花の中に、たくさん集まってベッドに見えなくもないめしべと、マンガで見る鯨の潮吹きのようなおしべが入っている。このめしべがヴィシュヌの寝床、おしべがヴィシュヌのヘソから出たブラフマーの居場所というわけだ。花の中の大蛇の中のヴィシュヌの中のヘソの中のブラフマーが、世界を作る。ロシアのマトリョーシカ人形のようにだんだん小さくなっていくのに、最後は世界になってしまうのが面白い。極小にして極大という感覚は、インド思想を理解するキーポイントである。
サンスクリットの詩文に多く現れる蓮の花は昼咲きと夜咲きがあるが、夜咲きを見るのは初めて。蓮の花の茎は葉から出ているのが面白い。1年に1度しか咲かず、一番満開となった今日、午前0時から何とプージャー(花の供養)を行うというので見に行った。
ブラフマーの蓮地面にランゴリの砂模様が描かれており、蓮の花の鉢植えは木の台の上に安置されていた。となりの若奥さんは私がカメラを持ってくるのを知っていたためか上等のサリーに着替えてアクセサリーまで付けている。線香をたき、花びらの代わりの色粉をかけて(花に花をかけるのは面白い)、炎をまわし、そのあと全員にプラサード(別当)の砂糖が配られた。
真夜中の0時から、こんな気合の入ったプージャーを見られるとは思っていなかった。花を神話に結びつけて敬う。「ワドガオン(バニヤン樹の村)」という地名をもちながら、今は乱開発で木々がほとんどないこの地域で、植物の神秘さを畏れ敬い、そして愛する姿がここにある。誰が見るともない家庭の祭に立ち会うことができて、ほのかな満足感をもった。
朝起きてもう1度写真を撮ろうと出てみたら、もうしぼんでいた。1年に1度しか咲かないのに、一夜でしぼんでしまうとは何とも粋な花である。だからこそ、神様のように敬われるだろう。
お昼、ゆで卵作りに失敗※してガッカリしていると2階の家からお呼ばれがあった。いつも通りかかるたびに、天井から吊り下げた紐をハンモックにして、遊園地のアトラクションなみのスピードで赤ちゃんを揺らしている家だ。そういう揺れに弱い私は、ほとんど虐待では?と思っていた。
また何かのプージャーだとかで、額に赤い印をつけて食事をご馳走になった。ここの家はベッドルームが2部屋あってうちよりも1部屋多いものの、おばあさん、兄夫婦に子ども2人、弟夫婦、里帰り出産している妹と先月生まれたばかりの赤ちゃんが9人で暮らしている。1部屋に3人ずつ住んでいる計算だ。今日はさらに妹の旦那と弟まで来て、私を加えて12人で食事。私が日ごろ、自分の部屋をいかに無駄に使っているかを思い知る。
※インドの卵は殻が薄いため、弱火で少しずつ加熱しないと割れてしまう。そのため時間がかかるのだが、待ち時間に勉強していたらすっかり忘れてしまった。水は全て蒸発し、卵は爆発して飛び散り、こげた匂いが立ち込める。泣く泣く生ごみとなってしまったが、家の前に出しておいたらネコが袋を開けて全部平らげた。

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