タージマハル

極論だが、インド旅行の醍醐味は人との出会いにあるのであって、ただ見物するだけならタージマハルひとつで十分なのではないかと思う。それほどタージマハルは群を抜いているのだ。この2週間の旅行で、観光らしい観光をしたのはここだけである。
外国人が多く泊まるホテルの食事は娘の口に合ったようだった。特にスイカジュースが気に入って何杯も飲んでいる。ところがスイカジュースというもの、飲みすぎると気持ち悪くなるらしい。朝食を終えて車に乗り、駅に向かう途中に派手に戻した。急発進、急ブレーキで運転が荒いせいもあっただろう。「気持ち悪い」とはまだ言えず「おなかいたい」と言っていたが完全に酔っていたのだ。車を止めて服を着替えさせる。
滞在1日目にして洗礼にあった娘は、しかしけろりとしていて駅についてしばらくすると、猛烈に食べ始めた。どんなに具合が悪くても、食欲を失わないのが娘の強さである。
タージマハルのあるアグラまでは車で4時間。今回は列車の旅を楽しみつつ、高額のタクシー代を節約しようという魂胆だったが、このまま車だったら娘はかなりつらかったに違いない。列車にして正解である。H.ニザムッディン駅から急行列車でアグラ・カントンメント駅まで3時間。車より早い。
さてインド人でもぼられる街として有名なアグラの駅前は、早速客引きがやってくる。またひと悶着しないといけないかなと思っていると、リキシャースタンドには警官がいて、行く場所によってきちんと定められた料金表が掲げてあった。ホテルからタージマハルに行ってまたホテルに戻るという半日貸切で180ルピー。運転手はこれまで乗せたことがある客が評価を書いたノートを見せてくれた。日本人も結構いたが、概ねよい評価になっている。
ホテルに着いて娘の服や抱いていた象のぬいぐるみや、私のズボンを洗濯し昼食をとる。娘は日本で見られないテレビが気に入ったようで、スイッチを入れるようねだってずっとアニメを見ている。「カートゥン・ネットワーク」というアニメ専門のチャンネルでは「トムとジェリー」や「ポパイ」の中に、ヒンディー語吹き替えの「デジモン」も放映されていた。
タージマハルにてさて午後も遅くなってからやっとタージマハルに向かう。相変わらず入場料は750ルピー、2人で1500ルピーもしたが、娘は無料だった。建築350年のお祝いをしたタージマハルは、毎月5日間ほど月の明るい日に夜間開放することになったらしい。月に浮かぶ白い建物の幻想的な風景も見てみたいが、昼間でも遜色はない。
タージマハルは昨年に引き続き2回目だが、今回は家族3人でやっと来たという実感もあってさらに感動的だった。最近ディズニーのお姫様に凝っている娘も、「これはお姫様のお城(ほんとうはお墓なんだが)だよ」と教えられて満足顔。
例によって前庭で写真を撮りながら少しずつ建物に近づいていくのだが、娘がインド人から異様な注目を浴びた。日本人の子どもなど見ることの少ないインド人は、「ソー・キュート!」と言って群がってくるのである。中にはほっぺをつねったり、キスをしてくるお姉さんまでいて、両側の頬にキスマークを付けられた娘はすっかり怯えてしまっている。これが娘のインド人恐怖症の始まりだった。
タージマハルを満喫すると、もう夕方。「ノット・タカイ」「ベリー・チープ」と寄って来るみやげ物売りを軽くいなすと、運転手が勧めるアグラ城もお土産屋も寄らずにまっすぐホテルへ。ヒンディー語で「ドースティー・コー(友達にいかが)」と言ってきたみやげ物売りに、「ドースティー」がみやげ物という意味だと思った妻が「ドースティー・ナヒーンヘー(友達はいらない)!」と言ったのがおかしかった。
見るものは1日に1つずつ。小さい子どもがいると、必然的にのんびりした旅行になるものだ。夜、外が騒がしいので出かけてみたら、結婚式のパレードだった。派手なネオンをバックに馬にまたがる新郎、その前で大音量の音楽を鳴らして踊り狂う若者たち。ぐずっていた娘は、スピーカーの前に来るとなぜか眠ってしまった。

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