帰国(どっちに?)

年末年始の務めを終えて再びインドへ。日本では津波のことを何度も心配されたが、シュクラ先生宅では「日本は津波が大丈夫だったか」と訊かれた。
ほんとうは1月下旬にカシミールのタヒルさんが遊びに来る予定だった。インド人が日本にくるためのビザはなかなか降りにくい。そこで私が一筆書いた「友人招待ビザ」というものを進めた。外務省ホームページにある書式に従って招待の理由や身元の保証を行い、所得証明と住民票、レターを付けててインド人に送る。インド人はさらに書式に従って申請書、パスポートのコピー、レター、航空券の予約票、所得証明をつけて大使館か領事館に送るという、なかなか面倒くさい作業だが、受理されれば3日で発行されるという。
しかしタヒルさんは結局来なかった。年末年始に風邪で家族全員体調を崩し、その上仕事を休む目処が立たなかったのである。そのために出発を2週間遅らせて待っていた私は、税金の手続きをしたり大学に行ったり、ゲーム会を開いたりして空いた時間を過ごした。出発の前日には葬儀も入り、日本にはいればいただけやることがあると思ったところである。
日本航空は珍しく30分ほど出発が遅れ、到着も1時間30分遅れた。機内では相変わらずずっと映画を見ていた。日本でもあまり見る時間も気力もない私の楽しみのひとつである。
まずは三谷幸喜の「笑の大学」。第二次大戦直前の日本。喜劇作家の椿は台本の上演許可をもらいに警察の担当官向坂のところに赴く。ところが堅物の向坂はいっこうに許可を与えず、無理難題をつきつける。それに応えるうちに台本は図らずも面白くなっていき…。もとは演劇で、妻と見に行ったのを思い出す。笑いあり涙ありの傑作だが、もともと取調室だけで完結する話だけに演劇と比べると余計なものが多すぎる気がした。
続いて韓国映画「誰にでも秘密がある」。今や日本人男性が好きな女性でベスト10入りするチェ・ジウと、これまた写真集を出すほどの人気俳優イ・ビョンホンが出演。医者を夫に持つ長女は倦怠期、勉強してばかりの次女は恋を知らず、歌手の三女は男選びを買い物のように思っている。そこに現れた謎の男。3人は同時に男に惹かれ、全員肉体関係をもつようになるが、この男はいったい何者? 謎の男性をイ・ビョンホン、ガリ勉の次女をチェ・ジウが演じる。テレビの純愛ドラマとは違って韓国の映画は過激だが、ストーリーは他愛ない。イ・ビョンホンとチェ・ジウのベッドシーンが見たい人がいたらおすすめ。
そして邦画「約三十の嘘」は詐欺師のグループが鉄道で繰り広げる愛と裏切りの物語。札幌で一山当てた詐欺師の一団が寝台列車で大阪に向かう。しかし途中で7000万の売り上げがすっかり消えてしまった。誰が裏切ったのか? 詐欺師が詐欺師をどこまで騙し、そして信じるかという面白いテーマだったが、その割に展開が行き当たりばったりだった。
最後は「エクソシスト・ビギニング」。ケニアで発掘された教会の謎を調べに、元神父の考古学者メリンが派遣される。しかしその教会は堕天使ルシフェルを鎮めるためのもので、発掘によって悪魔がめざめ、周囲では変死事件が相次ぐ。ナチスドイツ時代、ユダヤ人虐殺に加担させられたメリンは神を信じなくなってしまっていたが、とうとう法服をまとい悪魔祓いを行う。いわゆるホラーものにしては信仰やキリスト教の問題が鋭く描かれていて、考えさせられた。
と映画を4つも見て、機内は全く退屈しなかった。合間に読んだ玄侑宗久「死んだらどうなるの?(ちくまプリマー新書)」もオカルトとは異なる新たな視点があって、いい本だと思った。
さてデリーに着くと、期せずして12月の家族旅行の思い出がよみがえってきた。3ヶ月ぶりに再会した空港、娘が遊んでいたホテルの階段、3人で乗ったリキシャー、そしてのんびり過ごしたプネーの自宅……全てが思い出に彩られたインドを、今はたったひとりで見ている。こんな感傷的な思いに襲われるのは初めてだ。夢から覚めたかのように呆然としてしまった。
とはいえプネーに着けばいつもの生活が始まる。40日の不在で床はすっかりホコリだらけ。水道が来るのは1日1〜2時間だけだし、電気も1日3時間止まる。そのうえ電話も不通になっていて、感傷的になっている暇などない。シュクラ先生も「遅かったじゃないか」とてぐすね引いて待っていた。ここには私の居場所がある。

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