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ハプニングを楽しむ

  • author: hourei
  • 2005/05/28 00:00

朝から水が出なくなった。2月に掃除した水槽の中にまた苔が増えて出口がつまっているのだ。水が出なくなると一番困るのはトイレ(大)。お尻は洗えなくなるし、流せないから臭くなる。今日は辛うじて1回分だけ確保できたが、下痢で何度もいかなければいけなくなったりしたら、泣く泣く飲料水に手を出さなければならない。


そんなわけで使った食器もそのままにして、いつもの電気屋(電気器具だけでなく、配水も手がける)にでかけた。

「水槽、また詰まったんだけど洗ってくれないか」

「あの水槽はひびがたくさん入っている。今度取り外したら割れて壊れるよ。新しいのを買いな」

「いくらなんだ?」「1080ルピー(2700円)」

「高いな。俺はあとたった1ヶ月しか住まないんだ。新しいのを買ってもしょうがないよ」

「大家に買ってもらえよ」

大家に電話すると、案の定「金がないから買えない。洗って済ませてくれ」という返事。

「いや洗ったら100%壊れるぞ。新しいのを買うしかない」

つまりどういうことかというと、大家が新品の水槽を買わないと言っている限り、電気屋は今の水槽を洗う気がなく、私はいつまで経っても水を使えないということになる。大家に頼んで、夕方に来てもらうことにした。


トイレが使えないとあっては家にいるのも辛い。そこで昼過ぎからカリヤニナガルの映画館つきショッピングモール、マリープレックスに行くことにした。トイレにかこつけてはいるが、うまい昼食を食べて、喫茶店で涼みながら本を読んで、映画でも見てこようという魂胆である。自転車やバス+徒歩で行くには暑すぎるので、リキシャーで行くことにした。


家の前ではなかなかリキシャーが捕まらないが、バスの終点までちょっと歩くと一台停まっている。

「カリヤニナガルのマリープレックスまで」

「どこ?」「新しい映画館のあるところだ」「あー、あそこか」

エンジンをかけたリキシャーの兄ちゃんは、急に思い出したようにエンジンを切る。

「ちょっとヒゲを剃りたい。5分くらい待っててくれないか」

「何だと?」「ヒゲだよ、ヒ・ゲ!(といってアゴをしゃくる)」

ヒゲ剃りのために客を待たせる運転手。はじめは信じがたかったが、ほかにリキシャーもいないし、何だか滑稽に思えてきて床屋のベンチで待つことにした。


……インドでは5倍の法則によって1分待てというのは5分、5分待てというのは25分のことである。この兄ちゃん、はじめこそ「早くしてくれよー、客を待たせてんだからよ」と急かしていたのだが、仕上げはやたら入念になった。鏡とにらめっこしては口ひげのかたちがかっこ悪い、右のもみあげが長いなどと言って切らせ、髪型が崩れそうにない天然パーマに何度もくしを入れている。「くそー、日記のネタにしてやる」などと思いながら新聞を読む私。


「いくぞ!」それは俺のセリフだと思いながら30分後に出発となった。「いい男になったねー」と皮肉を言うと真に受けて上機嫌になっている。この野郎! しかし出発して間もなく、スピードが出ないなと思っていたらパンクしていた。「ちょっと降りて待ってて」……おいおい!


そして15分。兄ちゃんは通りすがりの男をアシスタントにしてタイヤを交換。通りすがりの男は「金がないんだ」と言って途中までタダで同乗した。たった4キロのところを45分もかかって到着。まあ急いではいないのだが……。降りようとしたとき、兄ちゃんが信じられない提案をしてくる。

「映画を見るのか?」「飯を食べたら見ると思う」

「俺も見たいな、チケット2枚買っておいてくれ」…はあ?

「じゃあ金くれ」「行き帰りのリキシャー代タダにするから、60ルピーのチケットでどうだ?」

「まだ1時過ぎだが、3時の上映まで何するつもり?」「パンクしたタイヤを直して来るよ」


何だか面白いことになってきたなと思いながらチケット売り場に行くと、幸か不幸か満席で売り切れていた。

「満席だった」「しょうがないな。でも帰りは送るよ。何時?」「まだ決まってない」

「そうか、じゃあな」と言って、なぜか握手で別れる我々。リキシャーの運転手の収入はたかだか月1万円ほどだというが、この兄ちゃんは道楽でやっているのだろうか。近くに住んでいるそうだから、もしかしたらまた会うかもしれない。


中華料理店「よっチャイナ(日本人のために洒落たのではないだろうが、このネーミング)」で昼食、喫茶店「カフェ・コーヒーデイ」で涼みながら勉強した。コーヒーデイはまだ出来たばかりで手際が悪く、注文を取りに来るまで20分、ティーバッグの紅茶を出すまでまた20分。出てから20分飲まないでいたので結局1時間も気まずくなく勉強することができた。映画は見られなかったが、食事+喫茶店で勉強というこのパターンを週に2,3度繰り返してもいいかもしれないと思う。


約束の夕方が近づいてきたのでリキシャーに乗って帰宅。たかが4キロでも、田舎の方角なので乗車拒否された挙句、一割増し料金になった。映画館ではミリンダ某とかいう有名なクリケット選手がコカコーラのキャンペーンでやって来ていて騒然となっていたが、私にとってはブサイクな男が来ているにすぎない。


さて約束の夕方。たいてい1日2日には平気で遅れてくるいい加減な大家にしては珍しく、30分だけ遅れてやって来た。しかも驚いたことにもう水槽を掃除する男を連れてきている。

「じゃ明日の朝9時でいいね」

「OK。遅れないようにしてくれ。ところでこの人、どこから連れてきたの?」

「別の電気屋だよ」

そうか、そういう手があったか。掃除をせずに新品を買わせたがっている電気屋に見切りをつけ、別の電気屋にあっさり頼む。私にはない発想だった。これで明日ちゃんと電気屋が来てくれれば、意外なほど早い一件落着……のはずだが、どうなるかは予断を許さない。

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