映画(29)不思議

パヘリパヘリ(パズル)
【ストーリー】
昔々、ラジャスタンのお話。年頃を迎えた娘ラッチーは嫁入りの途中、幽霊から見初められてしまう。幽霊はカラスや鳥になってラッチーを追いかけたが、ラッチーは恐れをなして逃げ出した。
さて結婚の相手はキショーン。お金にしか目がない男で、結婚式の間も頭の中は仕事のことばかり。そして初夜に部屋に入ってきたラッチーに向かって「明日から5年間、外国に出張に出る」と言い、泣き出したラッチーに「もう寝ろ」と言って仕事を続けるのだった。
キショーンが旅立ったその日、幽霊はキショーンに変身して家にやって来る。父親には不吉な予言があったので引き返したと言い訳し、家族は幽霊だとは知らず温かく迎える。一番喜んだのはラッチーだった。
その夜、幽霊はラッチーに自分が幽霊であることを告白し、別れを告げようとする。ラッチーははじめびっくりして怖がっていたが、幽霊の一途な愛に心を動かされて引き止め、一緒に暮らし始めた。幽霊はとても明るく楽しい性格で、しかも神通力で不思議なことを起こしたため、本物のキショーン以上に家族みんなから愛された。やがてラッチーは妊娠、幽霊は「女の子が生まれたら、ウッジュイにしよう」と提案する。
そして出産のときになって、本物のキショーンが妻のことを思い出して急遽帰ってきた。キショーンが2人?
さあ本物はどっち? 大混乱する村人たち。家族は幽霊の方がキショーンだと思っていたが、結局羊飼いの男に判定を頼みに行く。あれこれ試される2人に、本物のキショーンは恐れおののくばかり。最後の判定でラッチーを愛しているならば正体を明かすよう求められた幽霊は、妻から「神通力はもう決して使わないで」と言われていた禁を破って正体を明かし、皮袋の中に閉じ込められた。砂に埋まっていく皮袋。
そして普段の生活が戻る。幽霊の言った通り女の子が生まれたが、ラッチーは幸せな気持ちではなかった。キショーンに「これからどうしてあなたを愛せるというの?」と泣きながら顔を背ける。するとキショーンは「名前はウッジュイだよね」。「どうしてそれをあなたそれを…?」と驚くラッチー。そう、皮袋に閉じ込められたと思っていた幽霊はキショーンに乗り移ってその体を支配していたのである。
【感想】
実体はないけれども真剣に愛してくれる幽霊と、実体はあるけれども愛してくれない夫、妻はどっちを取るか?
帰ってきたらもう1人の自分がいた夫、どうやって自分を認めてもらうか? 判定にかけられた幽霊、人間としてい続けるか、妻への愛を貫くか? 幽霊のおかげで家の中がすっかり明るくなった家族、実の息子を取るか幽霊を取るか? 2人の同一人物が現れた村人たち、そのまま2人を認めるか、どちらか一方を幽霊として片付けるか? それが「パズル」である。キショーンと幽霊はシャールク・カーンが1人2役で出演、同時に出る場面は、どうやって合成しているのか全くわからないほど精巧な撮影だった。
何しろ主人公が幽霊なので感情移入しづらい。『居酒屋ゆうれい』のように死んだ配偶者が幽霊になって出てくるならまだその情念が分かるが、「ブート」とはそういった個人の人格がない、どちらかというと妖怪に近い存在だ。それが人間の女性を好きになってしまい、その女性も愛に応え、子供までできる……不思議だ。最後に幽霊は本物を乗っ取ってしまうが、それがハッピーエンドになるのもすごい。本物の方も、旅先で妻のことを思い出して急遽引き返してきたのに、こんな目にあわなければならないとはお気の毒。
おそらくこの映画の見方としては主人公に自分を重ね合わせるのではなくて、登場人物がおりなす奇想天外な出来事の方に重点を置いて楽しむべきなのだろう。本物と幽霊を見事に演じ分けたシャールク・カーンじゃなかったら、B級映画もいいところだったのではなかろうか。ヒロインにラーニー・ムカルジー、父親役にアヌパン・ケール、羊飼いにアミターブ・バッチャンといった大物が出ているが、いずれもあくまで幽霊の引き立たせ役といった感じで、見せ場は少なかったように思われた。キショーンが出した手紙を届けに来たら受け取ったのもキショーンだったという旅人役の喜劇俳優(名前失念・カルホーナホーで「グル」役の人)が光った。「出すのもお前、受け取るのもお前、あっちにいってもお前、こっちにいってもお前、お前はどこにでもいるんかいな!」
ここ数週間で公開され人気を博している3つの大物映画。コメディの『バンティー・オール・バブリー』、古典純愛の『パリニータ』と比べると、どうも最後まですっきりしない不思議さのために『パヘリ』はコメディとしても純愛ものとしてもやや後塵を拝することになりそうだ。音楽も不思議系でイマイチ。

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