『性愛奥義 官能の「カーマ・スートラ」解説』

『ホットドッグ・プレス』の連載だったということで、あまり期待してはいけないのかもしれない。インドの性愛指南書『カーマ・スートラ』を「愛の駆け引き」という観点から見直した本。
誘惑の方法から気のない相手を袖にする方法まで、セックスの周辺にある男女のふるまいを中心に取り上げる。もちろん、セックスそのものについても爪を立てる、歯でかむなどの特徴的な要素に焦点をあてつつ紹介するが、『カーマスートラ』の眼目は単なるハウトゥーセックスではなく、広範な男女関係全てにわたるものであるというのが筆者の主張だ。
帝政ローマ期に著されたオウィディウス『アルス・アマートリア』、中国・前漢期に作られた『素女経』から、極端な快楽主義を唱えた18世紀フランスのシャルル・フーリエ、そして現代日本のカリスマAV男優・加藤鷹まで古今東西の幅広い性愛文献を渉猟し、『カーマスートラ』との異同を説いている。
これだけ面白い切り口がたくさんあるのに、紙数の都合か執筆の方針なのか、表層的な印象がして単なる「ネタ本」に感じられた。「官能の『カーマスートラ』解読」とあるならば、背後にある快楽の哲学的問題や東西の文化比較(例えば、厭世主義・禁欲主義との関係とか)まで掘り下げてほしかったと思う。まあ、そんなところを『ホットドッグ・プレス』の読者は求めていないのかもしれないが。

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