『精子戦争―性行動の謎を解く』

人間の性行動―ルーティン・セックス,不倫,オーラルセックス,マスターベーション,夢精,避妊,スワッピング,乱交,オーガズム,両性愛,売春,レイプを,女性が同じ時期に2人以上の男性とセックスすることによって子宮内外で起こる精子戦争から解き明かす.
生物学者である著者はボランティアのカップルから精液を収集したり,ペニスの先端にファイバースコープを取り付けて射精の瞬間を映像に収めたりして徹底的に実証的な研究を行ったという.その結果を収めた学術書から,ストーリー仕立ての「シーン」とともに一般的に書き改めたもの.
サルやトリなどのほかの動物も例に出しながら,多くの性行動は人間に特有でないことを示すとともに,人間の性行動の原理も分かりやすく描く(不倫の多い種では睾丸が大きくなる,など).
精子にはブロッカー(子宮口に滞留して後から来る精子を止める),キラー(子宮内でほかの精子を毒殺する),エッグゲッター(卵子めがけて突っ込む)という役割分担があり,セックスかマスターベーションか,パートナーとの前のセックスから何日経っているかによって男性は量と配合を自由に変えられるという.ピストン運動は前に入っている精液を掻き出すためのものだという.
一方女性は排卵周期を自分でも分からないほど隠すことでパートナーのガードを外したり,オーガズムによって子宮口を塞いだり広げたりしてよりよい精子を集めるチャンスを作る.
これはまさに男と女,男と男のアクションゲームだ.そんな中で勝ち抜いた1匹の精子と,それを選んだ卵子から生まれたのが我々なのである.根本的な生存欲求は並ではない.
これを読んでいると,男女ともパートナーに不倫させないようにして自分は不倫するのがよいように思われてくるが,最後のシーンで貞節も(大部分の人が取る)ひとつの戦略であることを筆者は述べている.
生物学的には,自分の遺伝子をもった子孫をたくさん残した者が勝者なのである(健康であることが大事なので,ただ多ければよいという訳ではないが).不倫も一つの手だが,養育や性感染などの面でリスクが大きい.ステディなパートナーをもち子どもを作り続けられるならば,それに越したことはないのである.ただそれがうまくいかなかったとき,臨機応変な戦略を取るものが勝つということ.まさにゲーム.
400ページを超える大著だが,読み終わる頃には人間観がずいぶん変わったような気がする.

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