『自分は死なないと思っているヒトへ―知の毒』

予定がいっぱいで生活がカチンカチンになってしまう「時間病」、そして頭で理解できないことは拒絶する「脳化」=都市化の中で、自然な出来事であるはずの死はどんどん疎外され続けてきた。我々人間こそが無意識の中で日々変化し続けていることを再認識し、仕方ないものは仕方ないと受け止め、目を向けるべきものはしっかり言語化していこう、という本。
内容的には『死の壁』とあまり変わらないどころか、8つの講演を1冊にまとめた本書の中にさえ、同じ話(ブータンの虫取りなど)が何度も繰り返されていてうんざりしたり、宗教や経済など著者の専門外のことについての考察(仏教は自然宗教であるなど※)などについては稚拙とさえ思われる箇所もあったりしたけれども、生と死について考えるときには貴重な視点を提供してくれる。
死体は「もの」、生きている人は「人」だが、二人称の死体(家族など)については「もの」とはいかないところから、「もの」や「人」というのはその共同体(「世間」)で決められた約束事であり、つまるところ恣意的な名前の付け方であるというところや、ものを知ることは自分が変わっていくことであるはずだという卓見は、なるほどと思うだけでなく、自分の問題として深く考えさせる。
著者の本が刊行過多なのは著者のせいだけではないと思うが、あまり大風呂敷を広げず、解剖学から言えることをもっと発信してほしいと思う。
※仏教は自然宗教
インド仏教は都市を基盤にしており、また日本仏教も都市生活者である貴族・皇族のものとして広がった以上、今のお寺が「山」にある程度で単純に自然宗教などということはできないはずである。

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