『絶対弱者―孤立する若者たち』

コミュニケーション能力がなく、また必要とも感じていなくて、根拠のない自己肯定感をもち、社会と分断されつつある「絶対弱者」の存在を考える書。
「絶対弱者」の特徴として以下の9点が挙げられている。
1.知的好奇心はある
2.社会的な成功をめざした行動もしている
3.しかし地味な努力・社会的なコミュニケーションを軽んじる
4.自分の振る舞いの結果への想像力の不足
5.学習せず自己正当化する
6.親との関係を引きずっている
7.相手の感情を想像できない
8.自己が肥大化
9.社会的なコミュニケーションを必要と考えていない
「絶対弱者」は低所得層・若年層だけでなくあらゆる層におり、病気でもないため治療やカウンセリングも受けられず、現代社会でどんどん取り残されているという。
共著だが、三浦氏は塾・予備校で出会ったどうしようもない生徒たちの経験から、渋井氏はジャーナリズムの世界でライターとか言いながら何もできない若者たちの経験から説き起こしている。それ以外の層にどのようなかたちで存在しているのか分からないが、思い当たらないこともないわけではない。
さらに上記のような絶対弱者の特徴を、現代若者論のキーワード「ひきこもり」「アスペルガー」「非モテ」などとの異同を考察。多角的に現代人像に迫ることに成功している。
ただ両著者が「絶対弱者」についてイメージに違いがあると表明している通り、一様ではないようだ。三浦氏によればコミュニケーションどころか、最低限の社会常識すら身につけていないイメージであるが、渋井氏は人によってコミュニケーションが取れたり取れなかったりするというイメージ。上の9つの特徴にどれも当てはまらないと断言できる人がいないように、「絶対」という言葉とは裏腹に漸次的・相対的な面もありそうだ。
ともかく面白いのは三浦氏と予備校の学生たちのやりとりを描く「絶対弱者の風景」である。受験期特有の異常な精神状態もあるだろうが学力まるでダメでなぜか自信満々という学生たちが続々登場。三浦氏が正面から向き合い、何とかコミュニケーションをとろうと試行錯誤し、ときに優しくときに厳しく接する姿には胸を打たれる。大学の全入時代や学力格差と絡めた考察も秀逸で、これらの部分をもっと広げたら立派な受験参考書になりそうだ。

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