『なぜ「話」は通じないのか―コミュニケーションの不自由論』

話を最後まで聞かずにひとつふたつの単語に過剰反応して反論を始めてしまう輩を切る!
あとがきで著者は堅い本をはじめ考えていたが、身近な事例を書いているうち「話の通じない話」のネタ帳になったことを述べている。
「レズビアン」を「レズ」と誤植したことから著者が男根主義者と断定されてしまった話から、イラク人質事件で起こった自己責任論争、高橋哲哉・加藤典洋による敗戦後論争など具体例豊富。筆者が論点を整理して論点のズレを明らかにしている。
第一章は著者がものすごい剣幕で書いているのでひるんでしまったが、第二章からは、F.フクヤマの「歴史の終焉」やガダマーの「解釈学的循環」を切り口に、話が通じない理由を哲学的に掘り下げており、非常に興味深い。
著者によれば、マルクス主義などの大きな物語の消滅によって物語が個々人で細分化したのにそれに気づかず、自分の物語(多くは単純な二項対立)を他人に押し付けてしまうことが話が通じない理由とされる。想像力の欠如とも言えるだろう。
対策としては議論の基本である言葉の定義や論点の整理を面倒でも丁寧にやっていくほかない。でも相手の言わんとすることを理解するまで集中力が続かないのがまた問題。普段から努力しなければ人の話を聴く力はすぐ衰えてしまう。
差別語を使ったからといってその人に差別意識があるとは限らない。ネットで根拠も思慮もない言説が次々と生み出される中、脊髄反射せずに対話を重ねて理解するということ。反論はそれからでも遅くはない。

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