『哲学ディベート―〈倫理〉を〈論理〉する』

生徒児童が自ら育てたニワトリを殺して調理する「命の授業」、ソウルオリンピックやサッカーWCで問題になった犬食問題、借り腹や卵子提供による代理出産、腹を貸した女性が母性に目覚めてしまうベビービジネス、自ら死刑を望む凶悪犯の死刑、今の日本にはない終身刑、性犯罪者のプライバシーを公表するメーガン法、売春や自殺の自己決定、本人と遺族の希望による安楽死。きわめてアクチュアルな問題に対して、賛否両方の論点から掘り下げ、その背景にある哲学を探求する。
ひとつひとつのテーマには個別の具体例が詳しくレポートされ、賛成と反対の両方が根拠を述べながら主張していくという構成になっている。この詳しいレポートが知らなかったことばかりで衝撃的。世の中こんなところまで行きそうだとは。
お金さえ出せばカタログで卵子提供者を選び、独身者でも子どもを持てるとか、性犯罪者に児童ポルノを見せて反応したらショックを与えるパブロフの犬療法とか、GPSチップを外科手術で埋め込むとか、先天的な障害のある胎児を中絶するか否かを計算で決める新生児QOL公式とか。
序章で神の命令理論、黄金律、普遍的道徳、利己的快楽主義、功利的快楽主義、神秘的快楽主義などを概観し、それを個々の事例で応用できるようにしてあるのが周到。これで本に一貫性があり分かりやすくなっている。
サブタイトルにある〈論理〉についてはMECEの考え方が述べられている程度なので〈倫理〉よりだが、具体例と理論の両方ともにしっかりしており、飽きずに読めて考えさせられる良書。

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