『なぜあの人とは話が通じないのか? 非・論理コミュニケーション』

言いたいことから一部を引き算する「遠慮」、その一部を足し算する「察し」。そんなふうにしてやり取りする日本の察する文化では、言葉や論理がかえってマイナスになることもある。「言わないほうがよかった」「言っても無駄だった」ということも少なくないというのは、どこに原因があるのか。その面倒くさくて奥深い世界での生き方を、西洋の理論などを駆使して分析し、解決策を提案する。
まずコミュニケーション能力の高さを、「演じられるエピソードの数や種類」と考える。経験をつめば、同種のスキーマから類推したり、即座にスキーマを構築したりしながら対応することができる。
最もなるほどと思ったのは「共感モード」と「分析モード」の使い分けだった(146ページ)。相手の話を聴くとき、感情の共有を目的とするのが共感モード、受け取る事実や情報の識別・評価・批評を目的とするのが分析モードである。このモードがミスマッチしていると、コミュニケーションがうまくいかない。
よくあることだが、愚痴や悩み事を打ち明けられたとき、つい第三者としての状況分析やアドバイスをしてしまいがちだ。しかし相手はそんなことを求めておらず、ただつらい気持ちを分かってもらいたいだけかもしれない。それでは善意の状況分析やアドバイスでも、余計なお世話か、傷塩になってしまう。
もっとも、共感と分析のどちらかで済むのではなく、両方を匠に混ぜて使うのがよいとされている。会議でも、分析モードで臨みつつ、自分の意見を受け入れてもらうために共感モードも併用することが必要だ。
ほかにも自分の立場と相手の立場の優先順位による5つのコンフリクトスタイル(56ページ)、自分と相手の力関係による人間関係の三類型(70ページ)、勧誘やセールスで用いられる4つの戦術(79ページ)、3つのフェイスワークテクニック(102ページ)、ヴォイストレーニングのガイドライン(127ページ)、管理職のコミュニケーションスタイルの5タイプ(202ページ)など、場合分けをして説明してあるので論理的で分かりやすい。
キッチンシンキング(今の問題とは直接関係のないことも含めて、ありとあらゆる不満を一気にぶちまけること)、恐怖戦術のブーメラン効果(弱い恐怖では効果がなく、強い恐怖ではやる気がなくなるので、適度な脅かしが必要)、日本人のエートスの情緒的要素(専門家よりタレントが信頼される)、見かけの協議(主張する前に、相手の意見を聞くふりをする)、成功する服装(特に靴が盲点)、暗黙の性格観(第一印象から連想が広がる)、自己開示(自分についての情報を積極的に提供することで話を聞いてもらいやすくなる)など、具体的な記述になるほどと思うこと多数。
非・論理コミュニケーションは正攻法でないと思っていたが、円滑なコミュニケーションのため、自分が使うだけでなく、人が使うのも見逃さないでおきたい。

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