セブン12話と差別問題

先日,さる方から「12話は差別的表現で除外されている」というのは誤りだというご指摘があり,欠番に至る経緯を詳しく教えていただきました.

かいつまんで書きますと,12話「遊星より愛をこめて」は,核戦争で壊滅的被害を受けた異星人が地球人の血を求めてやってくるというお話でしたが,放送当時は何も問題視されず,2年間の間再放送も行われていました.

ところがある少年雑誌でこの異星人スペル星人が「ひばくせいじん」と紹介されたことで問題は起こります.被爆者への差別意識を助長するものであるとみなされたからです.

制作段階ではこの物語は被爆者を意識したものではなく,実際に放送を見ても差別があるとは思われない内容でした.それゆえにこの少年雑誌で紹介されるまでの2年間は何も問題にならなかったわけです.

しかし一度問題化すると収拾はつけられなくなり,円谷はじめ関係機関が謝罪すると共に12話を欠番とし,封印してしまいました.その際公式には原因や経緯について一切コメントをせず,また12話も放送などしなかったため,その後さまざまな憶測が飛び交い,幻の12話のビデオが高額で売買されたりすることになりました.

以上が私が聞いた大体の経緯です.

さて,ここで本当に12話に差別的表現はあったかということが問題になります.スペル星人の容姿からすぐに差別問題が起こったのではなく,あとからつけられた肩書きが問題の発端になっていることが非常に重要な点です.

12話自体には差別的表現がなかったけれども,この肩書きをつけた雑誌編集者に差別意識があって,そこから生じた問題が飛び火したというのがひとつの意見です.2年間誰が見ても問題視しなかったことがその証左になるといえます.

一方,雑誌から問題が遡及することで,差別的表現があるとみなされたという事実から,たとえ制作グループにその意図がなかったとしても,それは差別に違いないというのがもうひとつの意見です.潜在的な差別があって,それが雑誌の肩書きで表面化したという考え方です.

もちろん宇宙人なのですから,その容姿が人間と違うのは当然です.そして他の物語でもウルトラ警備隊は宇宙人を(害になるか否かに関わらず)徹底的に差別しています.それは,人間ではないからです.差別問題とは,同じ人間なのに同じ人間として扱われない問題です(同じ生き物なのに・・・ということは理念上はよさそうに見えますが,常に正しいとは限りません).しかし人間対宇宙人ではこのことは成り立たないでしょう.

ですから完全なファンタジーとして見れば,何も差別問題にはならないのですが,ファンタジーというものはどこか必ず現実にリンクしているものです(そうでなければ見ても何も理解できないでしょう).例えばウルトラセブンの中では,日米の綱引きで揺れる沖縄や,冷戦時代の軍拡競争などが描かれていると指摘されています.

以上のように12話に差別的表現はあったかという問題は,たいへん微妙で,意見の分かれるところですが,私は以下のように考えます.

一般的な問題として,差別問題というのは,差別される側から発生するものと考えられます.つまり、「差別するつもりがなかった」というのは差別される側にとっては全く意味のない(それどころかその無神経さに怒りすら覚える)言い訳にすぎません.

ところが,世間では差別する意図があった場合以外は不問にされることが多いようです.しかしそれは正しくありません.むしろ無意識的にされた差別の方がより深く相手を傷つける場合だってありえます.結局、どんな言葉も受ける側が傷つけば差別語になるのです.

製作サイドには差別意識はなく,世界の核問題を意識した平和の祈りが込められていました.これが欠番にならなかったら,26話の「血を吐きながら続ける悲しいマラソン」という名セリフ以上の警鐘になったことでしょう.

しかし,このSFによって結果的に傷ついた人たちがいたということだけで,この話に差別があったということになると思います.「なぜこの程度で差別か」と考えるのは差別された側にいないから言えることです.差別された方々の心の傷は,容易に他の人に理解できるものではありません.少しでも推し量ることぐらいしかできることはないのです.

以上が私の考えです.円谷が「くさいものにふた」と言わんばかりに封印してしまったため,検証や議論ができなくなっているのが現状です.しかし,ウルトラセブンを愛する人がいる限り,この12話はどうしても避けて通れないものですし,12話自体に差別的表現があったかどうかは全く解決されていません.多くの差別問題も同様にして,ほっておくことがひとつの解決のようになることが多いのですが,それでは実は何も解決しないと思います.

この問題に関心を持ったことを契機に,より多くの人々に自分の中の差別意識を点検していただければ幸いです.

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