だるい日








大学構内。大きな木が鬱蒼と生い茂っている。
大学の中の森

 インドの生活は,体調にしても仕事にしても「調子がいいな」と思うときにはもう下り坂で,「調子が悪いな」と思うときには上り坂という,起伏が大きいような気がする.
 教授との講読は,先週から週に2回に増えて,予習や復習でかなり充実してきたように思われた.ところが今日は何を間違えたか12時の約束を2時と勘違いして大ポカ.先生をしばらく待っていて,手帳を見てから気が付いた.せっかく先週から着々と用意してきたものを自分で無駄にすることに.しばらく図書館で呆然としていた.
 それから修士課程にいるカシミール出身のムリナールという学生が,ディワーリーで帰省した折に写本情報を調べてきてくれたが,これもダメ.彼はパンディットの家に生まれ,父親と本を出したりしているらしい.今は外務省の退避勧告もあってなかなか近寄りがたいカシミールだが,ここは古来文化が花開き,多くの哲学者が活躍していた.そのうち私が専門とするニヤーヤ学派の学者,ジャヤンタ・バッタとバーサルヴァジュニャは,10世紀頃の人と言われている.この2人の著作『ニヤーヤ・マンジャリー』と『ニヤーヤ・ブーシャナ』という本について,写本(※手書きの古い本.オリジナルに近い)があるか調べてもらっていたのである.シュリナガルとジャンムーの両方の大学の図書館でカタログから探したけれども,結局1冊もなかったという報告.カシミール出身の人間の著作がないことについて現地のパンディットは,「ジャヤンタは牢獄に入れられていたくらいだから何らかの理由で燃やされたのかもしれない」と言っていたそうだ.ガッカリ.
 そんな中,午後から特別講義.「古代インドの現代物理学に対する貢献」という謎のテーマで,ベナレス大学の物理学科の教授が10日間講義をしている.昨日が初日で「ヴァイシェーシカと物理学」,今日は長さや時間の単位の話だったが,出る気乗りがしていなかったところに小島さんが上司と大学を見に現れたので,付いていってチャイを飲んでいた.留学生センターのおじさんが「マイコに会ったか?マイコはもう日本に帰るぞ」と勧めるので「マイコって誰よ?」と思いつつせっかく小島さんたちもいることだし会いに行こうと思ったが,住んでいるのはどうやら女子寮ではなくて留学生寮の模様.結局会うことはできなかった.
 小島さんたちが帰った後,教授に謝りに行くと,「私もとても忙しかったから,講読はできなかったと思う」と仰っていた.実際とても忙しいのはわかっているので,何だか複雑な気分.そこにK君が現れる.彼の話では昨日お金を下ろしたときにキャッシュカードを取り忘れてしまい,今日は紛失手続きに追われていたという.この話は聞くだけで私までガッカリ.しかし,彼はシャイラジャー・バパットというヴェーダーンタを専門としている教授と会うことができ,教授は大歓迎.早速週2回読む約束をしていた.いいなあ.
 思うに,留学先の大学を選ぶとき,受け入れる教授はその学科のボスであることが多いはずだ.しかし,ボスは学科の運営にかなりの時間を割かれている.そこでいちばん望ましいのはナンバー2ぐらいの,実力も時間もある先生のところについて勉強することだろう.しかし,ナンバー2の先生はそもそもあまり名前が知られていない上に連絡も取りにくい.その先生が直に受け入れることも難しいだろう.つまり学科の中がどうなっているかは,行ってみないとわからないのである.そこで自分の専門と重なる先生が見つかるのは,本当に幸運だと言わざるを得ない.
 受け入れたのがジャー先生(※今勉強しているところのボス)である点では同じでも,ジャー先生自身の専門を当てにしてきた私と,一か八かジャー先生以外の人に賭けてきた(?)K君の違いがあきらかになったかたちになった.とはいえうらやましがっていても仕方がないので,私はできることを精一杯やるのみだ.
 明日のヨーガのクラスは,教室でクリケットのテレビ放映を見る集まりがあるために,休み.なんじゃそりゃ?

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