坐禅

ムンバイ観光

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モーニングコールは朝8時。4時間しか寝ていないが、仕事でお疲れのT氏を脇にこちらは元気。プネーでは昼寝付きののんびりした生活を送っているため体力が充実しているようだ。ホテルで豪華な朝食を頂き、今日はムンバイ観光。

日本人がインドの観光に期待するものと言えばおおよそタージマハル、アジャンターとエローラ、仏教の聖地など史跡ばかり、近代になって発達した大都市で見るべきものは少ない。そこにあるのは薄汚れたビル、交通渋滞、雑踏ばかりで、その活気に気後れするぐらいならまだしも、臭さ・汚さ・うるささに辟易していてはよい思い出になるはずもない。

ムンバイもしかり、多くの観光客はここを拠点にゴアやアウランガバードに行ってしまい、滞在してゆっくり観光するような人はあまりいない。T氏もはじめはアジャンターとエローラを希望していたが、ムンバイから日帰りは無理に近い。そのため小ぶりな市内観光となったが、私としてはわざわざ一人では来ないだろうムンバイ市内を観光できるのは楽しみだった。

ムンバイはバス路線網が整備されている。リキシャー乗り入れ禁止区域が多く、タクシーを使わなければならなくなるので、庶民の足はバスに集中するからだ。主要路線ならば10分も待っていれば目的地へ行くバスがやってくる。どこで乗るか、どこ行きか、料金はいくらか、どこで降りるかなどは、車掌にでも客にでも訊けばよい。あとバスは番号で識別するのでインド数字を知っておかなくてはならないぐらいか。多少面倒くさいが、料金は9〜15円ぐらいと、タクシーの10分の1以下。タクシーでもそれぐらいかといえばそれまでだが、インドで暮らしていると100円でも高いと感じられるようになるものだ。もっともそれ以上に、バスの旅は見晴らしもよくて風情がある。

空中庭園ホテルのあるナリマン・ポイントからバック・ベイという弧状に広がった港湾沿いの道をバスで北上。最初に向かったのはヴィーローズシャー・メーター公園(俗称空中庭園)である。貯水施設の上に作られており、高台にあって見晴らしがよい。しかしそれ以上に気を引くのは、動物や門の形に刈り込まれた植木。それがぽつぽつと点在しているさまはなかなかシュールだ。一番笑ったのが牛二頭に牽かせる人間。遠くから見てもすでにおかしい。人間の頭が大きすぎてゴリラのように見えた。そのほかにもやたら首が太いキリンや、何が何だかわからないハヌマーン(サルの神様)などがいてT氏といちいちウけていた。これがムンバイの代表的な公園とは……。


沈黙の塔入口さてこの公園のわきには知る人ぞ知る沈黙の塔がある。インドではパールシー(ペルシャ教)と呼ばれるゾロアスター教徒の鳥葬場で、死者の体を塔の最上階に置いてハゲタカに食べさせる。そのまま置いたのでは食べにくいので、適当な大きさに切り分けておくという。現在も鳥葬が行われているかは定かではない。プネーにいたイラン人は「自分はゾロアスター教徒だが、ムンバイにそんなものがあるとは知らなかった」、ムンバイに住んでいる映画俳優のジミーさんは「そんな伝統が街で続いているとしたら話題になるはずだが、聞いたことがない」という。塔は広い敷地内にあって外からは見えず、また異教徒は入ることができないため謎のベールに包まれている。ただ敷地から道を挟んだ隣にはマンションが建っており、ハゲタカが集まるようであれば近所迷惑になるのではないかと思われた。塔がどのような形態をしているかは、ヴィクトリア庭園にある博物館で確認できる。

後日聞いた話では、鳥葬は現在も行われているという。ただ辺り一帯が都市化してしまったために、ハゲタカがやってこないこと、そのため遺体がそのままカラカラになって悪臭を近所に撒き散らしていることが問題になっている。ちなみに都市部のヒンドゥー教徒は電気式焼却炉で骨もなくなるまで火葬される。灰は木の下に撒いたり、頑張って聖なるガンジス河まで持っていって流す。その辺のムター川などに流したりはしないそうだ。


ヴィクトリア動物園さて沈黙の塔の模型を見にヴィクトリア庭園までタクシーで150円。ヴィクトリア&アルバート博物館はあいにく改修工事中で見ることができず、敷地内にある動物園に行く。お昼過ぎで気温もずいぶん上がり、ヒョウ、クマ、トラ、カバ、サイなどの大型動物は軒並み横になってぐったりしていた。最近、インドの動物園でオリに手を入れた子どもがヒョウに襲われるという事件があったらしいが、ここは柵が二重になっていて安心。でもヘビコーナーはガラスにヒビが入っていたりして心配だった。映画のアナコンダを髣髴とさせるような2メートルぐらいのヘビが、物陰にトグロをまいて休んでいたのには少しびっくり。

ときどき、金網の内側にじっと人が休んでいたのがおかしかった。係員だと思うが、動物と同じぐらいぐったりしているので見世物のようになっている。


ウェールズ博物館バスでインド門まで行き、ひとまず昼食。すでに2時を過ぎており、T氏が希望していたエレファンタ島には行けないことが分かった。エレファンタ島はインド門から船で行ける小さな島で、ヒンドゥー教の石窟寺院がある。往復2時間かかるにもかかわらず、見るべきものはほとんどなくてがっかりするとK氏から聞いていたので私はおすすめしなかったが、T氏は今回のインド滞在で寺院を見ていなかったので何か見ておきたいと希望していたのだった。時間があれば行けるかもしれないと思っていたが行きの船は2時半が最終便。がっかりするT氏と共に、近くのプリンス・オブ・ウェールズ博物館を見ることにする。入場料は外国人料金で300ルピーもしたが、日本語の音声ガイド機が付いており、見るものも多くてなかなか楽しめた。ガンダーラ周辺で発掘された仏像、チベットやネパールの銅製仏像も展示されている。最上階に展示されている西洋絵画や日本・中国の陶磁器は余計かもしれない。さんざん史料を見たのに一番心に残ったものと言えばホワイト・タイガーの剥製。「子どもだよね」と2人で笑ってしまった。

閉館時間まで見た後はおみやげ探しに再び駅前へ。T氏はガネーシャ神像がほしいといっていたのであちこち見て歩き、120円のプラスチック製と1500円の白檀の木彫りを手に入れた。あとは白檀製のボールペン、紅茶、マサラ・バナナなどを買う。物にあふれた日本人に気に入ってもらえるおみやげを探すのは一苦労。ましてやインドでは日本人好みのものなどほとんどなきに等しい。布類はデザインが派手だし、食べ物は甘すぎるか辛すぎる。小島さんがお土産を買っていくたびに「もうこれは買ってこないで」とおみやげ禁止令が出て苦労していたというのを思い出した。そんな中でもT氏が手に入れたものはなかなかセンスがよかったのではないかと思う。駅からの帰りは二階建てバスの二階に乗り、海風を楽しみながらホテルに戻る。

さて、まる1日外を出歩いて疲れたところだがT氏は午前1時の便でアメリカへ。私は一緒に空港まで送ってもらって乗り合いタクシーでプネーに帰ることにした。電車やバスで帰るには時間が遅いし、体力も使う。乗り合いタクシーならかなり高くつくが家まで送ってもらえるので時間もかからない。

空港に着いたのは23時。タクシーカウンターに行くといつも使っている乗り合いタクシーのKKトラベルがもう閉店している。別のカウンターで「今すぐなら1人だが、あと30分か45分待てば乗り合い1600円でタクシーを出す」というので待つことにする。去年ムンバイ空港からプネーに初めて行ったとき、乗り合いタクシーが出発したのは午前2時だったから、それぐらいまで待つ覚悟はできていた。30分か45分なら午前0時前に出発できるではないか。航空券を持っていないため待合室には入れず、外のガードマンがいる場所で予め持ってきた本を読んで待っていた。

……しかし乗り合いタクシーは待てど暮らせど来ない。結局予想していた午前2時を過ぎ、30分どころか3時間30分経ってから「ほかに客が来なかった。1人だけで行くなら6000円…」などと言ってくる。もう帰る手段がないのを知った上で足元を見ている。もうヤケだ、あと3時間も待ては早朝便があるだろうと断ると、私に見切りをつけたのか、KKトラベルの係が別のところにいるのを教えてくれた。う〜ん、あくどい。

KKトラベルの係員は私が待っているのを気づいていたという。「どうしてあんなにずっと待っていたんだい?」「だって相乗りタクシーが出るっていうから……」「兄ちゃん、騙されたね」――実際にはお金は取られなかったし、あちらの人も相乗りになるよう人を探していたので騙されたのではないだろう。私は3時間の間にずいぶん本を読むことができたし、外は寒くも暑くもなかったから待たされたことに怒りを感じなかった。去年の今頃、同じく午前2時まで待たされた自分を世界一の不幸者のように思っていたことを考えればたくましくなったものだ。

結局私を含めて4人を乗せたKKトラベルの車が2時30分に発車。料金は1250円。前日の寝不足もあってか、タクシーの中では爆睡。4人の目的地がばらばらだったため、家に着いたのは5時間後だった。入浴してまたおやすみなさい。結局お昼過ぎまで寝ていた。

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このページは、おの2004年9月 1日 00:00に書いたブログ記事です。

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