坐禅

仏蹟(3)ラージギル

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ラージギル


今もなお 鷲の高嶺に 月ぞすむ
人は入佐の 山とおもえど


ブッダホテルを早朝に出発にして、オートリキシャーでナンディニ・パークというバスターミナルまで30分。そこからバス「ビハール・シャリフ」行きに乗って2時間30分、90円。小高い丘に囲まれた旧都ラージギルに到着した。ホテルでは5時間かかると言われていたが、日本政府ODAによる舗装道路は快速だった。
ラージギル(ラージャグリハ)は仏典で王舎城と呼ばれる仏教にかかわりの深い土地だ。ラーマーヤナやマハーバーラタの時代にまで遡る記録に残っているインド史上最古の都で、仏陀の時代にはビンビサーラ王とその息子のアジャタシャトル(アジャセ)が統治しており、仏陀はこの2人によく招かれた。ビンビサーラ王が予言者から「あなたは今度生まれてくる息子に殺されるでしょう」という予言を受け、生まれてきたアジャタシャトルを幽閉する。しかしアジャタシャトルは母の助けで脱出、そして王を殺して自分が王座に就く。後に深い後悔に苛まれたアジャタシャトルは仏陀に帰依するのだが、この話がもとになってアジャセ・コンプレックス(ファザコン)という心理学用語が生まれた。
周囲を5つの山に囲まれ、攻め込まれにくいようになっている。それぞれの山はほどよい高さで、道があれば頂上まで30分ほどで登ることができ、それぞれの山の頂上にはジャイナ寺院が建てられている。その例外がラトナギリ(多宝山)で、ここには日本山妙法寺の藤井日達(にちだつ)上人が1969年に開いた世界平和塔(シャーンティ・ストゥーパ)がある。ここにはロープウェイのリフトが日本人(の資金)によって作られており、仏教徒か否かを問わず観光の目玉になっている。
しかし仏蹟として注目すべきはそのストゥーパではない。そのすぐ近くにあり、数々のお経の舞台となる霊鷲山(りょうじゅせん・グリッダクータ、サンスクリット:グリドラクータ)である。ロープウェイ乗り場から歩いて頂上まで20分ほど。ここも日本人(の資金)によって道が整備されており、とても登りやすい。「霊山橋」と名前のついた橋までかかっている。頂上には大きな石が斜めに突き刺さったようなかたちをしており、これが鷲の頭に似ていることから名前が付けられたが、今でも崩れずにそのままの形をとどめていた。
仏陀はラージギルに立ち寄ったとき、竹林精舎(ヴェーヌヴァーナ)に住まいつつ、ここまでわざわざ登ってきて説法を行ったとされる。経典が編纂されるのは仏滅後だが、その第1回仏典結集がこのラージギルで行われたということもあってか、冒頭が「このように私は聞きました。ある時、仏陀は王舎城の霊鷲山で...」と始まるお経が多い。法華経、般若経、観無量寿経などがそうだ。多くの場合がフィクションだとしても、この山に登ると祇園精舎にいたときのように仏陀の声が聞こえてくるようだ。しばらくの間坐って、般若心経と高嶺の御詠歌をお唱えしたが、その間訪れる人は誰もいなかった。
そこから3キロほど離れた別の山のふもとにある竹林精舎は整備され、外国人料金50ルピーで入場するようになっている。確かに竹が生えていて、その中央に仏陀が沐浴したというカランダ池がある。ここも人があまりおらず閑静な場所だった。そのすぐそばには大理石でできた日本山妙法寺がある。門前のチャイ屋は1杯5ルピーとか言ってきたので怒ったら3ルピーになった(喫茶店や空港などを除いて、チャイは1杯2〜3ルピーである)。
さらに山に近づくと、シヴァ寺院になっている温泉精舎がある。温泉が湧き出ており、これが癒しの効果を持っているとかで近くの住民が沐浴や洗濯をしている。入る気はせず、ちょっと眺めていたらバラモンがお祈りにやってきた。「仏教徒ですから」と断っても「(俺は)ノー・プロブレム」と言ってシヴァ・リンガを参拝させ、温泉に足まで浸からせ、その都度お布施を要求してくる。財布を開けて10ルピーを出そうとすると「100ルピー札があるじゃないか」などと言ってくるのでこちらも「私もプリーストだぞ。そういうやり方は...」と怒る。それで退散するかと思いきや、今度は「彼が仏教のプリーストだ」と次なる相手を......。ほかにも何人かから声をかけられた。ここに住み込んでいるバラモンではなく、早朝や夜に行けばいないらしい。でも温泉にちょっとだけ浸かることができたし、写真も撮らせてくれた(本当は禁じられている)のでよしとしよう。
この温泉精舎から20分ほど山を登っていくと第1回仏典結集が行われた七葉窟(サプタパルニー・ゲーハ)がある。窟といっても岩の下に隙間があるといった感じで、近くにあるシヴァ寺院の管理の関係上、午後3時以降は登山できない。そのため翌朝また行く羽目になってしまった。ジャイナ寺院の奥に何かあるのかと思い獣道を茂みをかきわけながらしばらく進むと、見晴らしのいい高台を見つけた。でもそのあたりは白いサルがたくさん生息していて、こちらの様子を絶えず伺っていたのが少し怖い。








タンガ。サンスクリット語のトゥランガ(速く走るもの=馬)に由来する
タンガ

というわけで見どころ満載のラージギル、それぞれが離れたところにある上、山を登らなければ見られないものがあるので時間がかかる。ホテルはバスを降りてすぐ近くの「ホテル・アーナンダ」(1泊250円)。移動はほとんど馬車だったが、これがなかなか快適。馬の状態によって全部速さが違うのが面白い。どなられてもぶたれてもちょっと足を早めただけですぐ元の速さに戻る。御者もあまり観光ずれしておらず、素朴な人が多い。馬車に揺られながら、馬のたてがみを見て何ともいえぬくつろぎを覚えた。この街には、オートリキシャーが走っておらず、時々バスが駆け抜けるほかはこの馬車かサイクルリキシャーしかいない。そのため空気が澄んでいるのが嬉しかった。
起伏のある地形と、見慣れない乗り物。これだけでわくわくしてくるものだ。結局ここには1日半、行ったり来たりしながら過ごした。これだけいたのに、時間がなくてロープウェイに乗れなかったのは残念である。またもう1度来てみたいと思う。
夜に市場に出てみると、サイクルリキシャーのおじさんたちがヒマそうにしている。日が暮れると客足も途絶えるのか、雑談しながら1日の疲れを癒している。そこに混じって馬車の値段の話や仏陀の話などに花を咲かせる。「仏陀は人間の姿をした神様だからねえ」「いいえ、仏陀は人間です。だからこそ人の苦しみを知り、それを乗り越える方法を示すことができたのです」などと異教徒相手に布教モード。最初に女を買わないかと言ってきたおじさんは、リキシャー仲間に追っ払われていた。

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このページは、おの2004年11月11日 00:00に書いたブログ記事です。

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