『日本仏教の可能性』

方向性を失い行き詰ってきた現代において仏教をもう一度問い直し、そこから引き出される答えを社会に還元していくことはできないかを考察する本。
大谷大学と京都・相国寺での連続講義をもとにした講義録であり、話は拡散気味だが鋭い見方が随所にちりばめられ、はっとさせられる。
また内容的にはちくま新書の『仏教vs.倫理』に重複している点が多いが、葬式仏教、神仏、禅学といった仏教特有のトピックから切り込まれており、アカデミックなアプローチに安心感を覚える。
死者を絶対的な他者と捉え、死者の霊魂の有無に関わらず実存的に我々が直面する死者との関係性が論考の骨組みである。ここから、葬式仏教に積極的な意味を与え、経典を読み直し、社会に向けて仏教独自の立場を打ち出していけるという。
また神道と仏教の別、禅万能論、一神教と多神教といった極端に簡素化された二項対立の図式を危険だと警告し、一概に言えない多様な側面があることを示す。迷いながら、悩みながら、しかし地道に進もうとする考察に共感。
「今まで日本の中に仏教が根差してきた、その根底を形成している葬式仏教をむしろ反省し直して、それを出発点として、言ってみればどのようにして葬式仏教を本当の意味あるものにできるのかという視点から見ていく方が、日本仏教をこれから生かしていく道になるのではないかと考えています。」
「それぞれの時代によって、その時代の流行の思想、あるいは時代の価値観というものを単に受け入れているだけではないのか。国が戦争といえば戦争に賛成する、国が民主主義といえば民主主義に賛成するだけではないだろうかという疑問が残ります。」
仏教学者にも僧侶にも示唆に富んだ本であろう。

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