十善業と十重禁戒

曹洞宗のお葬式では、最初に戒名を授ける式で16条の戒律を示す。仏法僧への三帰戒、悪を作らず、善に励み、人を救い助けるという三聚浄戒、そして人としてやってはいけない十重禁戒である。
この十重禁戒は、最初の五戒までは覚えやすいが、残りの五戒はすぐに思い出せなかった。内容的に重なっていたり、お坊さんへの利益誘導とも取られかねない条文が入っているためである。
1.不殺生戒 殺してはならない
2.不偸盗戒 盗んではならない
3.不貪婬戒 浮気をしてはならない
4.不妄語戒 偽りの言葉を口にしてはならない
5.不酤酒戒 買ってまで酒を飲んではならない
6.不説過戒 他人の過ちをあげつらってはならない
7.不自讃毀他戒 自らをほめ、他をそしってはならない
8.不慳法財戒 他に施すことを惜しんではならない
9.不瞋恚戒 怒りに燃えて自分を失ってはならない
10.不謗三宝戒 仏法僧の三宝を謗り、不信の念を起こしてはならない
これを、十善業と並べてみると覚えやすいことがわかった。十善業は、身・口・意の順に並んでおり、身体に関わる戒律が1〜3、言葉に関わる戒律が4〜7、心に関わる戒律が8〜10となっている。そして8〜10は、貪瞋痴の三毒に対応している。
1.不殺生
2.不偸盗
3.不邪淫
4.不妄語
5.不綺語 おべっかを言ってはならない
6.不悪口 悪口を言ってはならない
7.不両舌 二枚舌を使ってはならない
8.不慳貪 欲張ってはならない
9.不瞋恚
10.不邪見 仏教を否定するものの見方をしてはならない
十重禁戒は不酤酒戒を加え、不綺語、不悪口、不両舌の3つをを不説過戒・不自讃毀他戒の2つにまとめたものと考えれば、合点がいく。不慳法財戒も、「もっとお布施下さい」という意味ではなくて、貪りをなくすことが主眼であり、不謗三宝戒は「お坊さんの悪口を言うな」ではなくて、仏教によって無知をなくすことが主眼である。お坊さんが仏教に外れていれば、それを批判するのは悪口でも謗三宝でもない。
さて、現代においてこの10の戒律の中で最も大切なものは不瞋恚であると、このごろよく思う。仕事でも、家庭でも、怒りで我を失ったがために信頼を失い、取り返しがつかなくなるケースをよく見るからである。特に、酒を飲んでそうなるのは本当にたちが悪い。
このごろ法事で『慈経』を読んでいるが、読んだ人が最も感銘を受けるのは次の部分である。「うちの父ちゃんに聞かせてあげたい」と。それだけ怒りというものに手を焼いている人が多いのだろう。
「どんな場合でも、人を欺いたり、軽んじたりしてはいけません。怒鳴ったり、腹を立てたり、お互いに人の苦しみを望んではいけません。」
穏やかな人であり続けようと願うこと。これは、仏道の修行だけでなく、社会生活においても大切なことである。

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