富士登山

昨年、高校の同窓会の二次会で、たまたま同じ席に座った5人で、なぜか富士山に登ろうという話になった。1人とは1年生のとき同じクラスだったが、卒業して20年、ぎりぎり名前を覚えていたくらいの間柄である。私が恐山の話をしているときに、富士山の話になって、この5人で登ってみようということに。まだ世界遺産に登録される前の話である。

最初は飲み会の冗談だと半ば思っていたが、終わってからメールが来て本格的な打ち合わせが始まる。山開きはいつか、どのルートから登るのが適当か……かっこいいと思ったのは、現地集合、現地解散というコンセプトである。集合時刻に、集合場所で初めて会う。ほかの仲間は来ないかもしれないという疑念を払って、友情を信じて待つ。みんな山形から行くわけだから、道中一緒になる可能性が高い。でも、たとえ同じ新幹線やバスに乗っていても、一切声をかけない、目も合わせないという。

年が明けて、登山日を8月の最初の土日に決定。お寺の仕事を入れないようにして臨んだ。そのうち世界遺産への登録や、それに伴う登山客の急増、入山料の徴収など、富士山関連のニュースに興味をもって目を通した。たまたま檀家さんで7月に富士山に登るという方がいらっしゃったので計画を詳しく伺う。全くといっていいほど興味がなかった富士山が、どんどん身近なものになっていく。

さて7月に入ったが、一向に詳細を詰める様子がなかったので、自分であれこれ調べたり、予約したりすることにした。交通手段は山形新幹線で大宮、大宮から埼京線で新宿、新宿からバスで登山口まで直行できる。しかし、登山道具一式を富士急ハイランド駅前の「LaMont(ラモント)」でレンタルすることにしたため、新宿から富士急ハイランドまで直行バスで行き、1駅となりの富士山駅からバスに乗ることにした。レンタル用品は自宅直送もできたが、お店で受け取って着替えれば、道中は完全な普段着でいける。

また、「弾丸登山」にならないよう富士スバルライン五合目の山小屋に宿泊を申し込み。もうすでにいっぱいだったが、2日前にキャンセル待ちが通った。また、「ご来光」を見るため徹夜の登山になるので、帰りはレンタル用品を返却した後すぐ、富士急ハイランドに一泊することにした。

その宿にシングルルームがなかったことから、ふと妻を誘うことを思いつく。誘ってみたら、周りの留学生がたくさん富士山に登ったことがあるのに、日本人として登ったことがないのは気になっていたと乗り気。しかも登山日の前日と週明けは東京で仕事なので極めて都合がよい。そこで急遽、妻も参加することになった。夫婦だけで遠出するのは、結婚12年で初めてである。

集合時間は土曜日の午後10時、富士スバルライン五合目の小御嶽神社入り口である。子供たちを母に任せて、山形を8時に出発し、新宿で妻と待ち合わせをし、登山道具を借りて18時に五合目に着き、仮眠をとる。富士山はなかなか遠い。

10時の待ち合わせには、高校の友人が約束通り現れた。妻を紹介し、張り切って出発する。高校の友人も、登山者の何%が途中で脱落するかとか、50分に10分くらいのペースで休憩するとよいとか、いろいろ情報を仕入れてきている。

しかし最初の休憩は15分後。思ったよりも登りがきつくて、すぐ息が上がる。このために今年バレーボールを始めたり、毎朝ラジオ体操をしたりして体力向上に努めてきたが、生半可なものではなかった。しかも6合目より7合目、7合目より8合目と勾配は急になり、険しい岩場も多くなる。友人たちは無口になり、やがてそれぞれのペースで登ったほうがよいと離散。妻と2人だけで登ることになった。

7合目くらいからランナーズ・ハイというのか、調子がよくなって楽しくなってきたが、それも8合目くらいまで。気温が5度くらいまで下がると、寒いし眠いし、膝が痛いしで、よろよろと登っていく。幸い、大勢の登山者がいて渋滞したおかげで、かえってゆっくり登れたのが幸いだった。妻は足が痛いといいつつ、人混みの隙間を縫うようにすいすい登っていた。私は付いていくのが精一杯。

途中には山小屋があり、そこで食べ物や飲み物も販売されている。値段は上になるほど高いのだが、8合目で寒さに負けてトモエ館というところで味噌汁と甘酒を頂く(ともに400円)。味噌汁はインスタントではなく、甘酒は酒粕が入っていて体が温まった。携帯酸素も一応吸ってみたが、心配していた高山病にはならず。

ご来光

山頂到着は計算通り、日の出時刻の4時50分だった。出発してから休憩を入れて6時間40分である。9合目くらいから登山道は超満員で、係員が拡声器で誘導していた。山頂の初日の出「ご来光」を拝んで、神社にもお参りし、友人や妻と健闘をたたえ合って、温かいコーンスープ(400円)とお汁粉(600円)を頂く。缶とインスタントとは思えない美味しさ!

しかし登山は登って終わりではない。むしろ辛いのは疲労がたまった中での下山である。お鉢巡りはもう無理という妻と共に、下山道を降りたが膝が痛くて、ストックを松葉杖のようにして休みながら歩いた。所要時間4時間30分。友人たちも無事。

富士登山がどれくらいきついかなど想像したこともなかったが、本当にたいへんだった。登山道はよく整備されていても、所要時間が長く、疲労が蓄積する。弾丸登山は論外だが、8合目の山小屋に泊まって、体力を回復させてから登るという方法もあることを知った。きつい登山だったが、友人と妻のお陰で乗りきれたことを感謝している。

9月にまた高校の同窓会が行われる。そこで富士登山を振り返るのも楽しみだ。

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