『二入四行論』

禅宗の初祖・菩提達磨大師の今日伝わる唯一の語録。近代になって敦煌写本から鈴木大拙氏によって発見されたもので、『景徳伝燈録』などに収録されている曇林の『菩提達磨大師略弁大乗入道四行観』序文と符合する。

内容は、壁のように無分別の境地で動かない「理入」と、報怨行(前生の怨みにこたえて耐え忍ぶ)・随縁行(今生の因縁に任せて喜ばない)・第三は無所求行(苦しみのもととなる欲求をもたない)・称法行(仏法にしたがい六波羅蜜を行う)を実践する「行入」。理論を叩き込むための坐禅と共に、仏の教えを踏まえた毎日の生活が求められる。

「若也捨妄歸眞凝住壁觀。無自無他凡聖等一堅住不移。更不隨於文教。此即與理冥符無有分別。寂然無爲名之理入。(もしも気まぐれをやめて真実に帰り、ぴたりと壁観を守るなら、自分も他人もなく、凡夫も聖人も平等で、ぐっと落ち着いて動きはしない。およそ古典の教えを追わず、すぐに真実と暗黙のうちにぴたりと合わさって、あらためて分別をはたらかせることなく、ひっそりと無為となる。これが理入である。)」

「智者若能信解此理。應當稱法而行。法體無慳。於身命財行檀捨施心無悋惜。達解三空不倚不著。(智者がもしこの道理を会得することができるなら、仏法の真実にかなって行動するほかはない。仏法は物惜しみすることがないから、身体と生命と財をあげて布施を行い、心にそれらを惜しむことがない。自分と相手と施物という三つがもともと空であることをよく了解する。)」

ここに説かれる達磨の情報は以下のものだけで、宝玉の話も、面壁九年も、梁の武帝も、慧可断臂も出てこない。

  • 西域の人、南天竺国の出身で、バラモン王の第三子から出家
  • 辺境の国における仏教の衰えを憂い、進んで中国に渡る
  • 外形にとらわれ、主義主張にこだわる人から妨害を受ける
  • 当初の弟子は道育と慧可。達磨に出会って数年間、弟子として仕え、慎ましく指導を仰いで先生の精神を身につけた。達磨は彼らの誠意に感じて真実の奥義を伝えた

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