香川県ネット・ゲーム依存対策条例のエビデンス

4月1日から施行された香川県ネット・ゲーム依存対策条例。エビデンスがないという批判があるので調べてみた。60分ではないけれども、それなりのものがある。

保護者は、前項の場合(スマートフォン等を使用させる場合)においては、子ども(未成年者)が睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を身に付けられるよう、子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が60分まで(学校等の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とすること及びスマートフォン等の使用(家族との連絡及び学習に必要な検索等を除く。)に当たっては、義務教育終了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とするとともに、前項のルールを遵守させるよう努めなければならない。
香川県ネット・ゲーム依存対策条例 第18条の2

県の担当者は2つの調査を挙げている。

「平日は60分まで」などの利用時間については、令和元年11月に国立病院機構久里浜医療センターから公表された全国調査結果において、平日のゲームの使用時間が1時間を超えると学業成績の低下が顕著になることや、香川県教育委員会が実施した平成30年度香川県学習状況調査において、スマートフォンなどの使用時間が1時間を超えると、使用時間が長い児童生徒ほど平均正答率が低い傾向にあるという結果などを参考に、基準として規定されたものであると聞いています。
香川県:県民の声 ご提言等の内容(回答の内容)

この2つの調査にあたってみると、成績が顕著に低下するのは1時間ではなく2時間のように見える。

過去12ヶ月間にゲームのために起きたこと(複数選択可)について、「学業成績の低下や仕事のパフォーマンスの低下」があったと答えた割合は、ゲーム使用時間が「60分未満」では 5.0%、「1時間以上2時間未満」では11.9%、「2時間以上3時間未満」では20.4%、「3時間以上4時間未満」では20.3%、「4時間以上5時間未満」では22.4%、「5時間以上6時間未満」では23.6%、「6時間以上」では29.8%であり、ゲーム時間が長くなるにしたがって多くなる傾向が見られた。
国立病院機構久里浜医療センター:ネット・ゲーム使用と生活習慣についてのアンケート結果(R1.11.27)

普段(月~金曜日)、1日当たりどれくらいの時間、テレビゲーム(コンピュータゲーム、携帯式のゲーム、携帯電話やスマートフォンを使ったゲームも含む)をしますか。

回答別全教科平均正答率
小5 小6 中1 中2 平均 +1時間で
0時間 77.9 81.7 76.6 71.3 76.9 0.0
1時間未満 76.3 80.1 75.1 70.7 75.6 -1.3
1~2時間 75.0 77.3 71.7 66.2 72.6 -3.0
2~3時間 70.2 73.0 68.0 61.4 68.2 -4.4
3~4時間 67.4 69.2 62.9 56.6 64.0 -4.2
4時間以上 59.7 64.1 55.8 48.6 57.1 -6.9

普段(月~金曜日)、1日当たりどれくらいの時間、携帯電話やスマートフォンで通話やメール、インターネットをしますか。(携帯電話やスマートフォンを使ってゲームをする時間は除く)

回答別全教科平均正答率
小5 小6 中1 中2 平均 +1時間で
0時間 74.5 77.4 72.6 67.2 72.9 0.0
1時間未満 75.8 78.6 73.8 68.4 74.2 +1.3
1~2時間 70.9 74.8 70.0 65.8 70.4 -3.8
2~3時間 66.4 71.1 65.3 61.2 66.0 -4.4
3~4時間 63.8 67.7 62.7 57.5 62.9 -3.1
4時間以上 58.5 63.0 56.3 49.4 56.8 -6.1

平成30年度香川県学習状況調査報告書

1日に1時間程度のテレビ視聴やゲーム使用が子どもの発達に与える影響は、まったくテレビを観ない・ゲームをしないのと変わらないことが示されています。一方、1日2時間を超えると、子どもたちの発達や学習時間への負の影響が飛躍的に大きくなることも明らかになっています。子どもが、1日1時間程度、テレビを観たりゲームをしたりすることで息抜きをすることに罪悪感を持つ必要はありません。
中室牧子『学力の経済学』

この根拠となっているのは論文Nakamuro, Inui, Senoh, Hiromatsu, “Are Television and Video Games Really Harmful for Kids?” (Contemporary Economic Policy)のTable 5で(著者の中室先生ご提供。感謝)、交絡因子を排してテレビとビデオゲーム別に問題行動(BPI)、登校意欲(OS)、肥満度(BMI)への影響を比べている。ここではテレビは視聴時間が長くなるにつれてBPI、OS、BMIいずれも増加していくが、ビデオゲームは時間が長くなるにつれて単純に増加していない。ビデオゲームよりもテレビのほうが悪影響があるようにも見える。

家庭教育アドバイザーとして近隣の小学校を周ってデジタルメディア(テレビ、テレビゲーム、ネット、スマホ全て含む)の家庭ルールについて保護者に話しあってもらうと、1日60分までというのは短すぎて現実的ではなく、2時間以下というルールに落ち着くことが多い。かくいう我が家の小中学生も1日2時間まで。これらのデータを見てもそれで問題なさそうだ。ただデジタルメディアを禁止するだけでは不十分で、それ以外のアクティビティを提案することとセットになっていなければならない。

新型コロナで在宅となったこの1ヶ月間の我が家は、午前中は学習時間、午後から2時間だけデジタルメディア、あとは運動や読書で過ごすというのを守っている(ただしリングフィットアドベンチャーは運動時間とみなす)。

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