梅花流: 2007年6月アーカイブ

金曜日は御詠歌の講習会。岩手からいらした特派師範の先生に、今年発表されたばかりの新曲をお習いする。このところ教えるほうばかりだったので、気を楽にして教わるありがたさを感じた。

新曲の『新亡精霊供養御和讃』は、曰くつきの曲である。昭和41年に山形県民会館で行われた全国大会で『盂蘭盆供養御和讃』という名前で発表された。『古城(♪松風さわぐ丘の上〜)』の作詞者(高橋掬太郎)、作曲者(細川潤一)、歌手(三橋美智也)トリオで作られ、レコードが吹き込まれた。

しかし当時の風潮か、僧侶でない人が作ったからか分からないけれども、その歌詞は後世に照らして問題があったのである。

一、生きのこの世は仮の宿 栄耀栄華の身なりとも
  心に負える罪あれば 死して後に報いあり
ニ、遠き仏陀の世にすらも 目連尊者のおん母は
  罪業ありて餓鬼道の 苦しみながく受け給う
三、斎を設けて亡き人の 冥途(よみじ)の厄難救わんと
  精霊まつる盆供養 仏の教えありがたや
  仏の教えありがたや

……気分が悪くなるような歌詞である。具体的にどこに問題があるのかというと、一番は来世に期待して現世を軽視する点が、日常の修行にこそ悟りがあるという宗門の教えと矛盾する。

二番と三番は、現在の苦しみは過去の報いであるという「悪しき業論」が問題。釈尊の説く自業自得は、現在の行いや努力が未来を決めるというところに重点がある。それを前世の報いなどというのは現在の努力を否定し、差別を肯定することにもなってしまう。昔のお坊さんは言っていたかもしれないが、「前世の報い」とか「先祖のたたり」なんていうのは、どっかの新興宗教を除いて禁句なのである。

このような理由で『盂蘭盆供養御和讃』はすでに15年前に奉詠禁止になったのであるが、ほかの曲にない独特のメロディーは伝説になっており、ぜひ復活させたいという声があった。

さらに供養の御詠歌、特に49日までにお唱えするものがほしいという要望があり(葬送は『追弔御和讃』、一周忌から十三回忌くらいまでは『追善供養御和讃』、それ以降は『報恩供養御和讃』がある)、このたび歌詞を新しくして生まれ変わったというわけである。

一、永遠(とわ)の身命(いのち)と願えども 無常の風にさそわれて
  愛惜(おし)みて散れる花なれば 別離の涙頬つたう
ニ、揺れる灯明(みあかし)あの笑顔 あなたに逢えたよろこびと
  深い絆に結ばれた 煌く慧命(いのち)忘れ得ん
三、香華供えて調(ただ)す身に 想いはおのずと深まりて
  安寧(やすらぎ)念(ねご)う祈りこそ 蓮の開く縁なり
四、七七供養の毎日(ひおくり)に 戒名(みな)を称えて掌(て)を合わす
  行持(つと)むる而今(いま)のまごころを 回らし手向けんみほとけに
  回らし手向けんみほとけに

……当て字が多いのと、ちょっとお涙頂戴なのが玉に瑕だが、釈尊や道元禅師の教えが分かりやすく覚えやすく語られたよい歌詞だと思う。

全体を通して気づくのは、あくまでも遺族の視点で描かれていることだ。タイトルに「精霊」と掲げながら、亡くなった人はどこに行くか、いつどのようにして成仏するかについては全く触れられていない。

日本には『往生要集』のように死後の世界をありありと描く書物もあるが、曹洞宗は日常の修行を重んじるため、死後の描写をすることはほとんどない。道元禅師が49日の後に人間に生まれ変わるとか、釈尊のいる兜率天に往くとか簡単に述べている程度。

今回の歌詞解説にも「輪廻転生」「黄泉」「生天」「浄土」など古来からのさまざまな考え方を尊重しなければいけないとしつつ、「死後の世界はいずれも証明することができず、実際には解らないことといえましょう。」と記されている。

しかし供養をするということは、死後も何かが残るという信仰に支えられているのは間違いない。それは遺された人の思い出とか記憶に還元できるものではないだろう。『千の風になって』ではないけれども、亡くなった人はこの世界のどこか、あるいはあの世にいて、生きている人とつながっているのである。

科学的には名状できないものに対して、宗教が物語を与えることはグリーフケアにとって大事なことだと思うが、そこまで踏み込んでいないこの歌詞はドライというか、冷たいというか、そんな感じもする(これで棄恩入無為の教えから二番も否定したらさらに仏教的で、さらに供養から遠ざかっただろう)。せめて道元禅師の記述程度を反映させてもよかったのではないか。

そもそも仏教において「無記」とされてきた死者の供養。どういう意味があるのか、この機会に考えていきたい。

新亡精霊供養御和讃』(2007年6月18日録音、mp3ファイル)

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