Book: 2007年12月アーカイブ

コミュニケーション能力がなく、また必要とも感じていなくて、根拠のない自己肯定感をもち、社会と分断されつつある「絶対弱者」の存在を考える書。

「絶対弱者」の特徴として以下の9点が挙げられている。
1.知的好奇心はある
2.社会的な成功をめざした行動もしている
3.しかし地味な努力・社会的なコミュニケーションを軽んじる
4.自分の振る舞いの結果への想像力の不足
5.学習せず自己正当化する
6.親との関係を引きずっている
7.相手の感情を想像できない
8.自己が肥大化
9.社会的なコミュニケーションを必要と考えていない

「絶対弱者」は低所得層・若年層だけでなくあらゆる層におり、病気でもないため治療やカウンセリングも受けられず、現代社会でどんどん取り残されているという。

共著だが、三浦氏は塾・予備校で出会ったどうしようもない生徒たちの経験から、渋井氏はジャーナリズムの世界でライターとか言いながら何もできない若者たちの経験から説き起こしている。それ以外の層にどのようなかたちで存在しているのか分からないが、思い当たらないこともないわけではない。

さらに上記のような絶対弱者の特徴を、現代若者論のキーワード「ひきこもり」「アスペルガー」「非モテ」などとの異同を考察。多角的に現代人像に迫ることに成功している。

ただ両著者が「絶対弱者」についてイメージに違いがあると表明している通り、一様ではないようだ。三浦氏によればコミュニケーションどころか、最低限の社会常識すら身につけていないイメージであるが、渋井氏は人によってコミュニケーションが取れたり取れなかったりするというイメージ。上の9つの特徴にどれも当てはまらないと断言できる人がいないように、「絶対」という言葉とは裏腹に漸次的・相対的な面もありそうだ。

ともかく面白いのは三浦氏と予備校の学生たちのやりとりを描く「絶対弱者の風景」である。受験期特有の異常な精神状態もあるだろうが学力まるでダメでなぜか自信満々という学生たちが続々登場。三浦氏が正面から向き合い、何とかコミュニケーションをとろうと試行錯誤し、ときに優しくときに厳しく接する姿には胸を打たれる。大学の全入時代や学力格差と絡めた考察も秀逸で、これらの部分をもっと広げたら立派な受験参考書になりそうだ。

『怪笑小説』

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自分のことは棚に上げて人の粗ばかり探してしまう人間の弱さを奇想天外なストーリーで描き出す。

オチは無理やりな感じもしないではないが、筋書きのインパクトで一度読み始めたらやめられない。

UFO=たぬき説に一生を捧げる『超たぬき理論』と、郊外のさえない住宅地で起こった殺人事件がとんでもない方向に発展する『しかばね台分譲住宅』が特に可笑しかった。「アルジャーノンに花束を」のパロディである『あるジーサンに線香を』は考えさせられるところも多い。

ミステリー作家東野圭吾によるコメディ作品、ほかにも読んでみようと思う。

いわゆるウェブ2.0が今後どのような方向に進んでいくのかを、20のトピックで考察した本。

アマゾン、レコメンデーション、行動ターゲティング、仮想通貨、グーグル、プラットフォーム、ベンチャー、マネタイズ、ユーチューブ、動画、TV、番組ネット配信、雑誌、新聞、セカンドライフ、ネット下流、ツイスター、リスペクト、リアル世界、ウィキノミクス。

ウェブサイトの検索・閲覧履歴を記録し、それに合わせた広告を配信する行動ターゲティング。これが携帯電話をプラットフォームとしてGPSやおサイフケータイ、メール、さらに通話を通じて行われたらすごいことになる。

「たとえばおサイフケータイの情報を使えば、毎日同じ駅と駅を通過しているという事実に対して「この人はこの駅と駅が通勤経路なのだな」と機器の側が認識することができる。夕刻、いつもより早く駅に着けば「今日は早かったな」と認識して駅周辺の買い物情報をその人の行動に即して提供することもできるし、いつもより遅ければ「ちょっと一杯」の居酒屋情報をその人の好みに合わせて提供するようなことも可能になる。」

うぜ〜。これに頼りきりで思考停止し、機械に操られる人間が出てきそうなのも怖いし、絶えず自分の行動が監視されているのも怖い。

望ましいのは音楽のプロモーションをクチコミで行うというモデルで成功したマイスペースのようなSNSで人をつなげ、セレンディピティ(新しいマッチング)を作ることだ。ある趣味が共通の知人がもっている別の趣味に興味をもち、人のつながりの中で自分の人生を豊かにしていく。

ほかにもNHKがオンデマンド配信を始めるようになって、少チャンネルで広告を独占してきたテレビ業界に異変が起こる話や、ニコニコ動画のコメントが実はデータベース化されているという話、ターゲットが細分化されすぎてインターネットに対抗できなくなる雑誌、インターネットにしか楽しみや希望を見出せない地方の若者フリーターがネット周辺を変えていく話、ブログからミクシィへ、そしてトゥイッターへ流れるコミュニケーション圧力からの回避、ウェブ上の集合知からプロダクトを生み出すクラウドソーシングなどが興味を引いた。

グーグルやアマゾンのもたらしたインパクト以上にすごいものはまだ生まれていないようだが、ウェブの世界も静かに大きく変わっていくのだろう。その中でどういう活用をするべきか、アンテナを張っていきたい。

私も当事者であるだけにかなりショッキングな本だった。

1991年から始まった大学院重点化。これは十八歳人口の減少が始まる直前に、文科省と東大法学部の主導で始められた。その狙いは、「成長後退期においてなおパイを失うまいと執念を燃やす"既得権維持"のための秘策」であった。

就職超氷河期も追い風となり、その結果1991年には10万人いた大学生が2004年には24万人。中には教授に薦められるまま何となく院生になってしまった人も少なくない。その結果生まれたのが、博士号を取得してフリーターという希望のない大量の30代、40代である。

各大学はいよいよ入学者が減少し、人件費抑制を余儀なくされている。新しい専任教員を採用せず、非常勤講師で授業を行う。文科省による「ポスドク一万人計画」も焼け石に水。数が足りないのと、任期が短いことで一時的な救済にしかなっていない。

私の仲間でも「ドクターコンビニバイト」なんて冗談を言っていたが、それがもう現実になっている。本書でも塾講師からパチプロまで、さまざまな仕事で糊口をしのぐ博士たちが紹介されている。行方不明や自殺者も多いという。結婚だってままならない。

「子連れの夫婦などは、日中から街をふらふらと歩いている「博士」を見つけると、危険なものを見つけたかのように反応し、我が子を自らの背中にサッと隠すことも珍しくない。「アアは、なっちゃだめよ」との声が聞こえてくるのは、こんな時だと、博士たちは涙ながらに語るのである。」(p.135)

筆者は、この状況を打開すべくいくつかの提案を行っている。ひとつは「ボトムアップ人間関係」への寄与。医者と患者、先生と生徒、介護士と介護される人といった上下関係が生まれやすい人間関係に入り、専門知識を生かして意思を疎通させ、平等な人間関係を築く手伝いをするという。例えば宗教界で学者・僧侶と一般の間を結ぶひろさちや氏のようなものだろう。

もうひとつは学問は学問、仕事は仕事と割り切って良識ある市民として生きていくやり方。学問自体ではなく、研究の過程で獲得した技能やフレームワークを応用して自分の生き方にするものである。

いずれも収入に直結するものではないが、少なくとも自分のアイデンティティーを確立させて道を開くものである。今や出口はそれしかない。「取っても食えないが、取らないと気持ちが悪い」点で「足の裏の米粒」に喩えられる博士号、所詮はその程度のものなのだと認識を改める必要があろう。

この状況が知れ渡れば、大学院も就職や職種の期待をもつ若者でなく、一度社会に出た経験豊富な人たちの比率が上がると筆者は予想する。すでに私の知り合いも年配の人が大学院で学んでいるし、大学すらそうなりかけているからおそらく事実だろう。これから10年後、20年後の大学のありようが大きく変わるのではないかと思った。

研究者の端くれとして迷っている私も、もう一度自分が歩いている道を見つめなおしたくなった。

少子化の主な原因を若者の雇用不安とパラサイトシングルの増加によるものと捉え、戦後からの時代背景の変遷や他国の状況を追いながら、対策を考える。

調査によれば男性も女性も結婚して子どもをもちたいと思っている人がほとんどである。しかし結婚できない、子どもが産めないというのは、筆者によれば、女性は父親以上に安定した収入が見込める男性と結婚したいが、そんな男性は今やほとんどいないという事情による。魅力格差と経済格差、事実とはいえ、読んでいて切なくなる話だ。

例えば青森で五割以上の女性が年収400万円以上の男性を求めているが、実際青森の未婚男性で年収400万円を満たすのは2.6%しかいないという。そして人々はできちゃった婚になってしまう。これではねぇ……。

しかし行政はこの経済格差をひた隠しにしているという。確かに今やどうしようもない問題だし、社会不安を煽ってはいけないのだろうが、少子化の最大の原因に目を背けていてはほかに見かけの対策をやっても効果あるまい。

著者の提言は?@若者が希望のもてる職をもつ、?A経済状態の悪い親でも教育のチャンスを、?Bワークアンドライフバランス、?C若者にコミュニケーション能力をである。理念的であるが、もはやそこまでいかないと何ともならないくらいの状況に陥っているのだ。

少子化問題に対する世間や学者の肯定的・否定的評価もしっかりと検討されており、多面的に問題を捉えられるのがよい。

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