Book: 2008年5月アーカイブ

古代アーリア人のザラスシュトラ・スピターマ(紀元前12〜9世紀、ギリシア語でゾロアスター、ドイツ語でツァラトゥシュトラ)が創始し、現代ではインドで儀式が細々と行われているだけのゾロアスター教を俯瞰した書。

「拝火教」とも言われるが著者によれば火を通して神に祈るのであって火自体を拝んでいるのではないからおかしいそうな。さらには西欧では黒魔術みたいに言われていたが、実際の祭式は悪魔から防御するというだけの受身の目的しかない。

アフラ・マズダー(叡智の主)とアンラ・マンユ(大悪魔、高校ではアーリマンと習った気が)の対立で全てが説明される善悪二元論の宗教が、ひとりの創案によるものだとは知らなかった。「この世は善と悪の闘争の舞台であり、そこに生まれた人間は、善と悪のどちらかを選択して、この闘争に参加する義務があるというのである。」

祭式でハオマ草(インドではソーマ草)を用いるなどバラモン教との共通点、祖霊(フラワシ)信仰=盂蘭盆、ミスラ神・救世主(サオシュヤント)信仰=阿弥陀仏・弥勒菩薩、ズルヴァーン・アナーヒター女神=観音菩薩などの仏教への影響、紀元後3世紀にゾロアスター教を国教としたサーサーン朝期の『アベスターグ(近世ペルシア語でアヴェスター)』におけるプラトン・アリストテレスに触発されたと思しき時間論・存在論、7世紀以降のイスラム改宗と生活様式の保存、ルネッサンス期にビザンティン王国から伝わった虚像とニーチェの『ツァラトゥシュトラはかく語りき』、そしてナチスのアーリア民族至上主義での英雄視と、異文化の接触を入念に描いているのが興味深い。

著者は大学の同級生。すでに多くの文献が失われて研究が困難である上に、日本社会とのリンクも少なくマイナーな分野だが、書いてあることの裏づけをきちんととり、広範な地域(アルメニアやアゼルバイジャンまで!)の調査を加味するという地道で妥協のない姿勢を見習いたい。

『若者はなぜ3年で辞めるのか?』の著者が豊富な具体的事例から「昭和的価値観」からの脱却を勧める本。『若者はなぜ〜』よりも読み応えもあるし説得力もある。どちらかだけ読もうと思っている人はこちらをお薦めしたい。

例えば……

私立の有名進学校から現役で東大法学部、卒業後に大手生保に入社したものの今は数字を拾って関係各所に流すだけ。転職市場ではもはや彼の人材の価値はない。「オレ、どこで間違ったのかなぁ……」

大手日本企業の幹部候補として派遣留学、MBAを取得したものの、その知識を生かすクラスになるにはあと10年以上もまたなければならない。米国企業との直接交渉で煮え切らない50代社員を差し置いて自分の判断で交渉に乗り出したところ「おまえ、なに勝手に仕切ってんだよ!」

東大文学部を卒業してすぐ出家、浄土真宗の僧侶となった松本圭介氏(『おぼうさん、はじめました。』)。一般社会への情報発信に力を入れている。東大生から「どうしてお坊さんになったんですか?」と聞かれて「ではどうしてあなたは官僚になりたいと思うんですか?」

多くの人はキャリアアップする時期を逸し、独立する気概もなく、趣味でも充実させながら今の職場でやっていくしかないのが現実だろう。割り切れるならいいが、「もう一人の自分」が頭をもたげてきたならば……やりたいことがあって転職するというのは昔からあることかもしれないが、それは「逃げ」ではない。

労働者を守ってきた左派政党が労働者の中高年化で保守化してしまい、中高年の高賃金を維持するために若い労働者が犠牲になっているという著者の指摘については傾聴に値する。でももっと実証的なデータがほしい。

大卒入社3年以内で36.5%が会社を辞める(2000)。その理由は厳選採用・ピンポイント採用のため専門性と仕事に対する意識の高い学生が多く採用されるようになったのに、現場では年功序列の名残で下積みの単調労働ばかりやらされることにフラストレーションを抱え込むからだという。

年功序列は若い頃の労働の対価を中高年になってから受け取る積み立て制度だが、中高年にポストと高収入を与えるには企業の成長が不可欠となる。しかし続く低成長時代においては、年功序列はもう支えきれない。こうして年功序列の幻想に騙されながら、またうすうす気づきながらも高給取りの上司を食わせるためにクタクタになる若者たち。

「年功序列制度は、組織の方針を信頼し、将来を託すという意味で、一種の宗教に似ていなくもない。写経を続ければいずれ極楽へ行くことができると信じられるからこそ、人は写経するのだ。出口のない地下牢の奥で毎日数字を書きなぞっていれば、心身に偏重をきたしても無理がない気がする。(p.87)」

努力が報われない社会に希望はない。そしてこれが少子化の原因になっているという。派遣社員が同じ仕事を半分以下の給料で行い、しかも将来性もないとすれば、その負担は「次世代を作り育てる」という役割の放棄につながる。

この格差の原因を企業の成果主義に求めてはならない。総人件費の抑制のため、結果として成果主義や派遣社員が導入されたのである。格差の原因は、年功序列への無理な固執である。

もはやよい高校、よい大学、よい企業というレールはすでに崩れた。「与えられるものは何でもやれるが、とくにやりたいことのないからっぽ人間」では生き残れない。答えはひとつではないし、他人から与えられるものでもない。会社を利用して自分を磨くくらいの意気込みで、働く理由を見つけ出そう。

字数が少ない光文社新書のせいで全体に具体例や資料が少なくイメージしにくいところも多かったが、主張と構成は分かりやすい。自分の所属する組織が当てにならなくなる可能性は常に意識しておかなければならないと思った。

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