Book: 2008年10月アーカイブ

よく『眼蔵』はわからないと言う人がいるが、それは事情が違う。『眼蔵』がわからせないのだ。わかる『眼蔵』は無い。その不在が『眼蔵』を問うことを強い、『眼蔵』そのものが「問い」として呼び起こされる。 『眼蔵』は問われることでしか存在しない。ならば、『眼蔵』を読むとは、「正解」がないままに問い続けるという徒労に耐えることだ。それはまさに釈尊の「正法」が現世で持つ構造なのである。(332ページ)

『正法眼蔵』を「本証妙修(修行によって本来の悟りが現れる)」パラダイムで読むことを本質/現象二元論であるとして拒否し、変わって「縁起(修行によってものの生起を再構成する)」パラダイムを打ち出す。例えば「現成考案」はあるがままで何不足ない真実ではなく、現にそうなっている存在を問い続けることと捉える。

このパラダイムで読まれる『正法眼蔵』の説は、インド仏教が打ち出したapoha(言葉の意味=他のものからの排除)や、arthakriyaa/savyaapaaravaada(真実=役に立つこと)に通じ、道元が(もしかしたら著者の南氏も)読んでいないはずのこうした経論と同じ哲学に達していることに驚きを禁じえない。

ただ話は存在や世界の分析で留まらず、実践的な修行論に及ぶ。道元が導いたような問いの仕方を身につければ、ものの善悪まで判断できるようになってくるというわけだ。哲学が倫理につながっていくという論の進め方は、これまで気がついたことがなかった。

道元が不落因果、不昧因果、撥無因果、深信因果というときの一見相互に矛盾する因果の捉え方は、長く教団を悩ませてきたが(悪しき業論など)、修行の方法という捉え方で見事に解決されている。実体視された因果関係(誰も逆らえない天の法則みたいなもの)は否定され、修行の方法としての因果関係(修行への意志と教えへの確信を促すもの)は肯定されているというわけだ。

お世辞にも読みやすい本とはいえないが、じっくり時間をかけて言葉を噛みしめ、定期的に何度か読み返したいと思わせる本。

『おくりびと』

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映画脚本をもとにしたマンガだが、細かい設定が結構変わっていた。その中で一番よかったのは、主人公と妻以外が全員庄内弁をしゃべっていること。山崎努扮するNKエージェントの社長は、謎めいた雰囲気ではなく温かみがあり、近所のおばあちゃんや子どもたち(特にすぐる君)もいい味を出している。

さそうあきら氏はこの原作にうってつけの漫画家だったと思う。映画を見ていたのにまた泣けた。

社会評論という角度からネットの現在を切り取ってみせる書。毎日新聞低俗記事事件、書き込みが殺到したニコ動の小沢一郎演説、40000回閲覧された志井和夫の国会質問(CGJ「志井グッジョブ」は笑った)、JJモデルブログ炎上事件、光市「1.5人」発言などを取り上げ、その背景まで分析する。

ネットで起きた事件を知るだけでも十分興味深いが、その背後にあるマスコミの弱体化、格差問題、ネチズン意識の変化、ネットの敵視などに対する分析も鋭い。著者が紹介した「ブログ論壇」の意見は感情的なものも多く、必ずしも論理的なものばかりではなかったが、当事者としての切実さがにじみ出ているのが心に響いた。でもだからこそ、ブログが一般問題として論じることが少ないのかもしれない。

一番印象に残ったのはブログの言論責任について。大学や会社に属している人が問題発言をしたとき、日本ではそれがパーソナルな場所(レンタルブログなど)であっても本人ではなく組織にクレームが行ってしまう(たとえば私の場合だったら、ここで書いたことへのクレームが曹洞宗の本庁に!)。おかしな話だと思うが、実際にはよくあることだ。個というものが日本では確立していないのかもしれない。

アメリカのカリスマ弁護士が書いたものをビジネススクールの先生が和訳したものだが、全然すごくない。この本で説かれていることを一言で言えば、「理詰めよりも謙虚に相手の立場を慮って」ということ。それしかできないから議論が苦手という日本人が多いのに。

訳者も後書きでこのことに気づいているようだ。

確かに、今までの日本は、あえて角立てて意見を戦わせるよりも、「俺とお前」に代表される、阿吽の呼吸、「お互いの気持ちを慮る」ことが重要視されてきた。(202ページ)

目的の達成のためにおべっか使いや、自分にだけ有利な表現などの詭弁も紹介されている。説得では不可欠なことかもしれないが、あまり褒められたものではない。

一番なるほどと思ったのは「意見と人格を一体化させない」という項。「○○さんの意見」と言わずに「Aという意見」ということで、人格否定と取られないようにするという、インテルの社長さんの話だ。でもこれは訳者解説で出てくる話。トホホ。

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