Book: 2010年2月アーカイブ

ブッダの説法に皆が納得したのは、言い争いを避けた優しいコミュニケーション術にあった。インド論理学の専門家である著者が、原始仏典からそのあり方を見る。

時間軸に沿って順次立てて話すこと、質問者の問いに従って答えること(問いと答えの縁起)、怒りには怒りで答えないこと、矛盾を誤解と考えてみること、二重否定は肯定とは限らないこと、正誤より善悪で考えること、対偶は言葉の縁起で捉えられること、断定(演繹)・場合分け(帰納)・反問(帰謬)・捨て置きの4つの答え方を駆使することなどが説かれている。

はじめに論理学用語ありきではなく、分かりやすく説明して、後からさりげなく論理学用語を当てはめるのは見事。

優しさも、コミュニケーションでは重要な戦略であることが分かる。例えば次のようなブッダの言葉。「罵らない私たちを罵り、怒らない私たちを起こり、争論しない私たちに争論をしかけたが、私たちは、それを受け取らない。だから、それは、あなたのものになる」悪意は、受け取らなければ相手にはね返るだけの話ということである。」

「行かないことはない」という人に、「行くか、行かないか、どっち?」と聞いてはならない。会話を進め、事情を少しずつ知るために、「どうしたの?なにかあるの?」と確認するのが、相手の心を大事に考えるということである。

「討論を通じて、人がともに語るにふさわしいのかそうではないのかを知らねばならない。比丘たちよ。もしある人が質問されて、断定的に解答すべき問いに、断定的に解答せず、分けて答えるべき問いに、分けて解答せず、反問して答えるべき問いに、反問して解答せず、捨て置くべき問いを、捨て置かないならば、このような人は、比丘たちよ、ともに語るにふさわしくないのである。」重要な教えならば断定的に解答し、詳しい説明を求められているならば分けて解答し、相手の質問や論に難点があれば反問して解答し、堂々巡りになりそうだったら、捨て置く。一辺倒でない細やかな対応にも、優しさがある。

ブッダの思考法を、西洋論理学の用語で再構築していくのは、かけ離れすぎている分、意欲的な試みである。本書は非常に読みやすい分、物足りなくもあった。著者には今後ももっと多くの経典から、ブッダの思考法を分析してほしい。

『お葬式の雑学』

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お葬式のやり方は、隣町に行っただけで全く異なることがある。なので、長年慣れた自分の地域のやり方が絶対正しいと思ってはいけない。本書は、日本発の葬儀相談員である著者が、全国各地から集めた風習を、葬儀の順序に沿って整理・紹介するものである。

火葬は葬儀の前か後かというのが、地域によって異なるのは知っていたが。前火葬は東北と沖縄と、一部の都市だけで、後火葬のほうが多いというのは初めて知った。そのほか、宗派別の焼香回数の一覧表とか、通夜・葬儀・法事別の服装の例など、丁寧で分かりやすい。

なるほど!と思ったのは次のような薀蓄。
・香典はふくさに包んで
・遺体に刀を置くのは、ヒゲをそって髪を短くしたのが起源
・秩父では会葬者全員が杖と天冠をする。また通夜に紅白の水引を出す(遅れたお見舞いという意味)
・出棺で棺を回すのは行道を表す
・天冠は悪霊や鬼から逃れるためのもの
・玄関以外から出棺するのは戻らず成仏するように
・心臓ペースメーカーは火葬中に破裂する
・葬式で「重ね重ね」「いよいよ」など重ね言葉はタブー
・会葬者まで喪服を着るのは日本だけ
・明治6〜8年まで火葬禁止令があった
・昔は赤飯を魔よけや厄払いのため葬儀で出していた
・喉仏は溶けるので、第二頚骨で代用している
・淳和天皇(840年没)や親鸞は散骨を遺言
・火葬船の構想がある

一方、一般的にそういうならば異を唱えたいこともあった。
・「香典」は葬式のみ→法事でも使えるのでは?
・霊柩車は故人の足から→頭からという葬儀社もある
・十七〜二十七回忌は行わない人がほとんど→こちらは行う人がほとんど
・祭壇は仏教的には意味がない→須弥壇と考えれば意味はある

あとがきで著者は、どんな風習にも、故人への優しさや遺族への思いやり、家族を大切に思う気持ちが溢れているという。そしてお葬式の心得として「故人の旅立ちを、心からの感謝で見送る」と説く。逆さ水や着物の反対合わせなど、死を恐れ、死の穢れから逃れるためのものと捉えがちだが、たいへんよい見方だと思う。本書全体も、単なるネタ帳ではなく、このような意識から作られていて好感が持てた。

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