Book: 2014年2月アーカイブ

『遺体』

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東日本大震災の後、岩手県釜石市で起こったことを関係者の証言から小説仕立てでルポルタージュ。遺体安置所となった学校の体育館の様子から、遺体捜索と搬送、医師・歯科医による検死、そして火葬場の再稼働まで、遺体との関わりを通して、震災直後の釜石の人たちを描く。

ずっと以前に購入したものの、なかなか読み始めることができなかった本。なまなましい遺体の描写と、嘆き悲しむ遺族の様子がショッキングで忍びなかったためである。しかし一冊読み終わってみると、地域の絆の強さや優しさに胸を打たれ、読んでよかったと思われた。

民生委員で安置所の管理に携わった千葉淳氏をはじめ、安置所の遺体に話しかける場面が心に残る。もちろん遺体が答えることはない。しかし生きているかのように接することで、くじけそうな自分を励ましているようにも見える。

「起きろ! ここで何やってるんだ! 早く起きろよ!」
「実君、昨晩はずっとここにて寒かっただろ。ごめんな。今日こそ、お父さんやお母さんが探しにやってきてくれるといいな。そしたら、実君はどんなお話をするつもりだ? 今から考えておきなよ」
「雄飛君は、こんなやさしいママに恵まれてよかったな。短い間だったけど会えて嬉しかったろ。また生まれ変わってあいにくるんだぞ」

もうひとつ、この本の中で重要な役割を果たしているのが僧侶である。日蓮宗の芝崎惠應氏が安置所を訪れ、お経を読んだとき、館内の職員や警察官が作業を中断して横一列に並んだ。目の前で子供の亡骸を前に泣き続ける女性に読経の声も途切れがちになる。ようやく再稼働した斎場に読経を申し出ると、職員は「どうぞお願いいたします。震災の影響で、遺族は故人のためにお葬式を上げることができずつらい思いをしています。みなさん、とても喜ぶはずです」という。それから、釜石仏教会が立ち上がり、火葬場で読経ボランティアが行われることになった。火葬を受け入れた秋田の斎場でも、地元の僧侶が職員とともに待っていたとある。

震災以後、たくさんの僧侶が被災地に駆けつけたが、炊き出しや瓦礫撤去以上に期待されていたことは読経であったという。そんないつもやっている、簡単なことで被災地の役に立つのだろうかと僧侶は思うが、この本を読むと、それは僧侶にしかできない、とても大切なことだったのだと分かる。

私の地元の斎場にも、津波の犠牲になった遺体が宮城県から運ばれてきていた。そのとき、市の仏教会として読経ボランティアを行い、火葬中、遺族から故人のお話を伺ったことを思い出す(そのときの日記)。どれぐらい役に立つことなのだろうかと心もとなかったが、この本を読み、喜んでくれた人もいたのかもしれないと、改めて救われる思いがした。

『天国旅行』

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心中や自殺をテーマにした短編集。といっても、暗澹とした話ではなく、命を救い出す話だったり、不思議な話だったり、遺された者が立ち直っていく話だったりと前向きで、何かに取り憑かれたように一気に最後まで読んでしまう。

富士の樹海で首を吊り残った中年男が、若い男と死に場所を探す話。駆け落ち同然で結ばれた夫婦の倦怠期に夫がしたためた遺言。祖母の初盆にお参りに来た男が教える祖母の過去。夜になると前世の夢を見続けてきた女の行く末。高校の校庭で突如焼身自殺した先輩の謎解き。ひき逃げで幽霊になってしまった彼女との毎日。一家心中で唯一生き残った男の決意。

「幽冥境を分かつ」「死人に口なし」というように、死者と直接話をすることはできない。そして死は日常の中に突如として訪れる。これまですぐそばにいて、呼びかければ笑顔で答えていた人が、いきなり手の届かないところにいってしまう。しかし、死者は無になるのではない。記憶が残り、その後もあたかも生きていたときと同じように扱われる。好きだったお菓子を仏壇に供え、よいことがあれば報告し、困ったときは願いごとをする。そんなとき、死者はどんな気持ちでいることだろう。どんなに忖度しても、想像の域を出ない。あるいは、虚構かもしれない。

それでも私たちは、「故人の遺志」や「喜びそうなこと」を考え、自身の行動の指針としている。そのとき死者は、幽霊とかそういったものではなく、リアリティのある生者として扱われる。あたかも、ちょっと遠くに旅行に行っているかのように。会えないのは悲しいけれど、またいつかどこかで会えるだろうと。

何話かは未完で話が終わる。これは死者の意思を勝手に決め付けてはいけないという作者の思いが反映したものだろうか。答えのない問いに、逃げずに向き合わなければならない。

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