極小旅行

各駅停車 インドには年度末がない。大学の授業は2月ごろから始まったかと思ったら1ヶ月半で終わり、今はどこも試験期間中。4月に試験が終わると、あとは8月まで長い夏休みになる。
 しかし私のように個人的に先生に習っている身では、夏休みのほうが先生の時間が空くだろうと楽しみにしていたら、昨日ジャー先生から5月は忙しくて時間がないと言われた。ジャー先生は普段も忙しいが、夏休みになるとインド各地で行われる集中講義に行かなくてはならず、さらに忙しくなるという。
 5月の連休(インドは連休ではないが)に短期間の帰国をするという話をすると、そのまましばらくいて6月に戻ってきてはと提案された。インドで一番暑い5月に、授業もなく家でぼうっとしていることを考えたら、その提案は悪くない。
 というわけで先日予約したばかりの航空券の変更をしに旅行会社に行く。日本航空ムンバイ支店から紹介された旅行会社はプネーの中心部にあり、家から10キロほどもある。リキシャーで125円(リキシャーは1キロ13円ぐらい)というのはかなり高い。
 航空券の変更が終わって近くにある本屋に立ち寄った後、お昼過ぎだったので美味しい店でもないかと歩いてみる。するとマクドナルドの看板を発見した。「5 minutes」と書いてある。
プネーにはマクドナルドが2件しかない。日本ではどこにでもあるものが、こう少ないと希少価値が出てくるというもので、チキンバーガーを食べたくなった(インドなのでビーフはない)。看板をたどって歩き始める。角を曲がると看板は「3 minutes」になっていた。
 しかしそこからは行けども行けども、マクドナルドが見つからない。途中で道を聞くと知らないのにでたらめなことを言ったおじさんがいて、もと来た道を戻ったりもした。そのうち道端でパーン(ミントや消石灰を混ぜた食後の口直し・まずい)を食べていたおじさんが「今そっちにいくところだから乗ってけ」と言う。
 そこからスクーターの後ろに乗って行ったが5分ぐらいかかった。歩いたら15分以上かかりそうだ。その間に看板は全くない。「3 minutes」というのは車でということだったのだろうか。
 ようやくマクドナルドにたどり着いた。INOXという映画館の1階に入っているところで、全体に冷房がきいており涼しい。マックグリル・バリューミールを食べた。ちなみにビッグマックは「マハラジャマック」になっていた。
 後は帰るだけだが、せっかく中心部に来たのでいろいろ見て回ることにする。持ってきた地図を見るとプネー駅が近そう。駅まで行ったことがなかったのでどんなものか行ってみた。
 駅は思ったほど大きくなかったが、人の多さが壮観。地べたに寝転がって昼寝している人たち、ホームで信じられないような長さの列を作って待っている人たち、券売所に殺到する人たち、軍人さんの一団。警官は物騒な鉄砲を持って雑談している。
 時刻表を見ると、ちょうど家の近くを通る各駅停車ロナワラ行きが20分後に出るところだった。チケットを並んで買ってホームに行き、列車に乗り込む。わりあい空いているなと思っていると「レディース!」という声、そこは女性専用車両だった。隣の普通車両は結構込んでいる。
 列車は驚いたことに定刻に出発した。扉全開で走るので、扉付近にいると風が涼しい。特に鉄橋を渡ったときの風はさわやかだった。肩をどついてくる人がいるので振り向くと車掌だった。簡単に偽造できそうな紙にスタンプを押しただけの券を見せる。
 乗ったのはたったの2駅。料金も13円である。改札はないから、駅のどこから出てもよい。そこからリキシャーに乗ったら、近すぎて10円くらいぼられた(10円をぼられるというのかわからないが)。
 15分ぐらいの小さな小さな鉄道旅行だったが、インドで鉄道に乗るのは初めてでもあり、楽しかった。これ以上長いとつらいぐらいだったかもしれないが、買ってきた時刻表を見たら、プネー発デリー行きは特急でも28時間かかることがわかった(飛行機なら2時間)。ジャンムーやヴァラナシ、ブパネーシュワルなど、信じられないくらい遠いところまで直行列車が出ている。途中の駅もほとんど聞いたことのない名前ばかり。まるで銀河鉄道のようだ。
 しかしどんなに遠くに行くにも格安の鉄道は、予約の手間がたいへんであることを差し引いても魅力的な手段であり、インド人の足となっている。今日もたくさんの人の夢を乗せて列車は走る。インドにいるうちに、長距離旅行をしてみたくなった。

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