訪問(1)

プネーで私がしたかったことは、私の知り合いに家族を紹介することだった。前々から家族が来るというと「ぜひ家に連れてきて」と頼まれていたのだ。
そのひとつ、ヴィナヤクさん宅を訪問。彼の家は名実共に敷居が低いのでよく遊びにいっている。今回は丸井教授の忘れ物を届けてくれたI氏も同行した。I氏にとってヴィナヤクさんは後輩で、大学でもよく会っている。バスとリキシャーを乗り継いでヴィナヤクさん宅へ。
行く道では妻が写真を撮り始めた。インドに暮らしていると何が珍しいのかだんだんわからなくなってくるが、ヘルメットをかぶらないで走っているバイクの群れ、箱みたいな大人がやっと1人入れる小さな店、赤電話、妻のシャッターを通して見えてくるものも新鮮である。ちょうどリキシャーが自転車に追突されて幌に穴が開き、自転車の少年と言い争いになっているところも写真に収めることができた。
ヴィナヤク家ヴィナヤクさん宅に着くと、お姉さんと旦那さん、1才になったばかりのサイラージ君も来ていた。サイラージ君は相変わらず目の周りにアンジャンを塗っており、もともと大きい目が一層大きく見える。I氏が「目、でかすぎ」と言ったのでうけた。
ヴィナヤクさんが奥の部屋からキャロム(おはじきビリヤード)の台を出してきて、ヴィナヤクさん、お姉さんの旦那さん、I氏、私と4人で遊ぶ。以前私がキャロムを練習しているというのを聞いてヴィナヤクさんは覚えていたのだ。4人で遊ぶ場合、2対2のチーム対戦になるのだが、位置取りの駆け引きがあって面白い。その後、3人でも遊べるルールとして、どれを落としてもいいけれど黒が1パイサ、白が5パイサ、赤が10パイサという遊びをした。赤は基本ルール通り、直後に黒か白を落とさないと得点にならない。ヴィナヤクさんの腕前はほれぼれするほどで完敗。子どもの頃からやりこんでいるのがわかる。
終わってお母さんの作った食事。これまで何度かご馳走になっているが、絶妙な味付けで美味しい。店で食べるものとはまったく味が違うのである。娘もごはんだけずっと食べていた。
食後に妻は手にメーンディ(ヘナ染料による模様書き)を施してもらう。これが乾くまで1時間程度、手を使ってはいけない。その後映画を見ることにしていたのでちょうどよい。ただ娘は3時間の映画をじっと見ているはずもなかったので、私と娘はFさんの家に遊びに行くことにした。
Fさんは論文の〆切が近づいて相当テンパっていたが、父子2人をお菓子まで出して快くおもてなししてくれた。やはりここでも、娘はFさんになつく。私がおむつを買いに行っている間、Fさんにだっこされていたという。こんなことはインド人に対してはありえない。完全にインド人と日本人を見分けているようだ。
娘が遊んでいる間、Fさんの研究の話を聞かせてもらう。Fさんはアジャンタ石窟寺院を研究していて、壁画が何の物語を表しているか同定していくという作業が中心。美大卒という異色の経歴がここで生きていて、1ヶ月もかけて描いたという綿密なスケッチに舌を巻いた。
映画「スワデース」は、今ひとつぱっとしない今年のヒンディー映画で最後の頼みの綱だった。しかし面白いことは面白いが、ずいぶん地味な映画だったそうだ。NASAのエンジニアをしていたシャールク・カーンが祖国インドの村興しに力を入れるという話だが、村の先生であるヒロインが垢抜けておらず、ダンスのシーンも少ない。妻の反応次第では私も見ようと思っていたが、その話を聞いて行く気が失せた。
スネーハ1才映画が終わって家に帰ると、誕生パーティーをやっている。同じ団地に住むスネーハちゃんの1才の誕生日だった。夕食をどうしようと思っていたところにちょうどよいご馳走だった。珍しいことに、ここの一族は仏教徒で、本尊として釈迦牟尼仏、その前にアンベードカル博士の絵を掲げてお祝いをしている。この界隈で仏教徒と言えばヒンドゥー教で差別されたアウトカーストが改宗したものであるが、こうして立派にお祝いをしているところを見る限り、その社会的地位は向上しつつあるのかもしれない。同じ仏教徒としてエールを送りたい気分になった。
娘はというと、線香の匂いがきつくて鼻をおさえ、家に帰りたがった。食事もまたごはんだけで、家に帰ってパンを食べている。こんな栄養状態ではいけないと思い、家にあった醤油で野菜を煮込んだら食べた。娘は大の和食党なのである。

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