『ドミニオン』は賞の権威を証明する

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 ファミリー層をターゲットに照準を定めているドイツ年間ゲーム大賞審査委員会が、今年『ドミニオン』を大賞に選んだことについて、違和感を唱える意見が見られる。いわく、『ドミニオン』は初心者にウケがよくないとか、直感的に分かりにくいとか、中には確率計算勝負のアブストラクトゲームだとまでいう人もいる。

 年間大賞は11名という少数の審査員で選んでいるから、たとえ審査員がボードゲームジャーナリズムのエキスパートだからといって、異議を唱える愛好者はいなくならない。しかし去年の『ケルト』、一昨年の『ズーロレット』が「こんな物足りないゲームを大賞に選ぶなんて」という論調だったのに対して、今年は逆で「ファミリーには難しすぎる」である。何を選んでも文句をいう人はいるものだが、大賞の方針から考えて審査員の中にも同様の意見をもつ人はいたに違いない。それではどうして彼らは『ドミニオン』を選んだのか。

 まず、『ドミニオン』の大賞史上における位置づけを見てみよう。

 一つ目は、前年にエッセン国際ゲーム祭で発売されていること。これは『ナイアガラ』以来3年ぶり11回目である。ドイツのゲーム年度では、前年のエッセン国際ゲーム祭と新年のニュルンベルク玩具見本市に発売された新作を選考対象にしているが、一般にニュルンベルク玩具見本市で発売されたほうが新しさをアピールできて審査員の心象に有利だとされる。一方、前年に発売されたゲームには、半年以上持続するインパクトが求められ、受賞のハードルが高い。『ドミニオン』は昨秋の発売以来、年内に11ヶ国語版が企画され、また国内でも加速度的に人気を広めた。

 二つ目は、オリジナルが外国のデザイナーかつメーカーであること。これは『チケットトゥライド』以来4年ぶり8回目である。ドイツ語版を出していても、主にマーケティングの理由で外国のデザイナー・メーカーは不利である。受賞後に30万セットを一気に生産・流通できるくらいの規模・力がなければ受賞できない。『ドミニオン』はニューヨークのD.ヴァッカリーノ氏のデザインでアメリカのリオグランデ社から発売されたが、ドイツのメーカーで販売網も強いハンス・イム・グリュック社と同時発売だったのが幸いだった。ちなみにハンス社としては『郵便馬車』以来2年ぶり6回目の受賞で、(発売時の)メーカー別の受賞数ではラベンスバーガーを抜いて1位になった。

 三つ目はドイツゲーム賞1位。少し気が早いが、この人気ぶりを考えれば1位を取る可能性が高い。年間ゲーム大賞とドイツゲーム賞の二冠に輝くとすれば、『カルカソンヌ』以来7年ぶり6回目となる。2001年以降、ドイツ年間ゲーム大賞がファミリー向けを前面に打ち出してから、フリークが主に投票するドイツゲーム賞との乖離が進んでおり、二冠はもうないだろうと言われていた。それだけに今世紀になってからの二冠は貴重である。なお、前年に発売されたゲームでドイツゲーム賞1位になったのは、『エル・グランデ』と『カルカソンヌ』しかない。

 そして四つ目はカードゲームであること。ボードを使わないカードゲームとしては初の受賞である。ただこれはさほど驚くことではない。というのも、ドミニオンは通常のカードゲームと違い、500枚もカードが入った大箱ゲームだからである。これまで最も大賞に近かったのは『操り人形』(2000年最終ノミネート)だが、小箱で単価も安かった。年間ゲーム大賞審査委員会は、定価の数パーセントというライセンス料で運営されているから、ほかにも優れた候補がある中でわざわざ安価なゲームを選ぶことはない。

 こうして過去の受賞作と比べてみると、『カルカソンヌ』に近い位置づけであることが分かる。『カルカソンヌ』がそうだったように、大衆の爆発的な人気に押された面が否めない。さらに言えば、審査委員会は、大賞というレーベルを大衆の人気に乗じてアピールしようとしているのではないか。

 年間ゲーム大賞がドイツのゲーム市場を発展させてきたことは間違いない。何百と発売される新作の中から、年間ゲーム大賞がたった1つの作品を選ぶ。受賞作は新聞などで大々的に報じられ、デパートのおもちゃ売り場にずらりと並べられ、普段はボードゲームを遊ばない人でも、この一作だけを手にとって遊ぶ。これが1万以上売れれば御の字という世界で、受賞するといきなり30万セットは確実という影響力になる。メーカーも競って面白いゲームを作る。競争によってシステムだけでなく、イラストやチップや木製のコマのクオリティーも上がり、ドイツは他国の追随を許さなくなった。

 こうしてボードゲームの面白さを保証するレーベルとなっている年間ゲーム大賞だが、年間ゲーム大賞自体の権威は何によって保証されているかというと、循環論法になるようだが結局ボードゲームの面白さなのである。受賞作をみんなが遊んでつまらなかったといえば、権威は損なわれてしまう。そこで、何年かに一度は、年間ゲーム大賞自体の権威が証明されなければいけない。

 というわけで『ドミニオン』は『カルカソンヌ』と同様、年間ゲーム大賞の権威の証明として持ち出されたというのが私の見方である。審査員は決して奇をてらっているのではありません。みんなが楽しめるゲームを真摯に選んでいますから、これからも安心してお手に取って下さいというメッセージが込められているように見える。

 それだけ『ドミニオン』が受賞に左右されず、人気が確固たるモンスタータイトルということでもある。このようなゲームは10年に1度くらいしか現れない。ファミリー向けか否かなど言っていられない。これに乗らずして年間ゲーム大賞を名乗れようか。

 ドイツゲーム黄金期と言われた90年代、ファミリー向けを模索した00年代に続き、今度の10年間は何が起こるだろうか。『ドミニオン』は非ドイツ圏ゲームの隆盛につながるのか。これからの年間ゲーム大賞の方針と傾向に注目していきたい。

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